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新章・第二十話 名は、届く

灰王連合の仮設陣地。


ロイは、

焚き火の前に座り込んでいた。


立てる。

歩ける。

だが――

剣を振るえば、確実に死ぬ。


それが、今の自分だと

嫌でも分かっている。


「……ちっ」


拳を握り、

力が入らない事を確かめてから、

また開く。


「ほんと、

 中途半端だな……」


その時。


アークが、

外から戻ってきた。


珍しく、

少しだけ興奮した顔で。


「ロイ」


「聞いてほしい話がある」


ロイ

「珍しいな」


「面白い話か?」


アーク

「……多分、

 君が気に入る」



アークは、

簡単に話した。


剣鬼の娘。

守護騎士になった少女。

イシバ家を排除するために動いた話。


そして――

最後に、その名を告げる。


「……殿を務めた剣士の名は」


「トヨヒサ」


ロイの手が、

ぴたりと止まった。


「……は?」


アーク

「元はトヨフサと名乗っていたそうだ」


「村の名誉騎士として、

 名を置いていったらしい」


ロイは、

しばらく黙り――

やがて、吹き出した。


「……はは」


「そっか」


肩をすくめる。


「あいつ、

 ちゃんと“置いてきた”んだな」


アーク

「……知っているんですか」


ロイ

「会った事はねぇ」


「でも……」


空を見上げる。


「分かる」


「殿に向いてる奴ってのは、

 前に出ねぇ」


「最後に、

 名前だけ残す」


アークは、

少しだけ微笑んだ。


「……あなたも、

 似たところがあります」


ロイ

「悪口だな」



夜。


ロイは、

一人で外に出た。


遠くの山影。


剣塚の谷がある方向。


(……トヨヒサ、か)


(いい名だ)


剣を振れない今の自分が、

誰かの剣を想う。


それは、

不思議な感覚だった。


「……負けてらんねぇな」


誰にともなく呟く。


歩けるだけで、

今はいい。


次に剣を振る時は、

 置くためじゃなく、

 取り戻すためだ。



――同じ頃。


剣塚の谷の外縁。


血の匂いが、

まだ新しい。


地に伏しているのは、

一人の剣豪。


名は、

カネツグ。


最後まで、

剣の眷属に抗った男。


その胸に、

深く突き刺さった刃を引き抜きながら、

男が立ち上がる。


赤い鎧。

魔力を纏った刃。


魔剣士・直政。


剣の眷属の前に、

静かに跪く。


「……終わりました」


剣の眷属は、

満足げに言った。


『これで、

 三人の剣豪は全て消えた』


『残るは――』


視線が、

遠くを向く。


『トヨヒサ』


直政の口元が、

わずかに歪む。


「……名を持つ剣、ですか」


『そうだ』


『だからこそ、

 斬り甲斐がある』


カネツグの血が、

地に染み込む。


剣の眷属は、

最後にこう告げた。


『次は、

 “名を置いた剣”を折る』


『そして――』


『灰王が、

 再び剣を取る前に』


闇が、

ゆっくりと閉じる。

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