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新章・第十八話 守る剣の名

村に、朝が戻ってきた。


逃げ惑っていた人々が、

恐る恐る家の外へ出る。


壊された柵。

踏み荒らされた畑。


それでも――

誰一人、欠けていない。


その事実が、

何よりの勝利だった。



広場に、人が集まる。


年配の男が、

一歩前へ出た。


「……ニア」


呼ばれた少女は、

少しだけ緊張した顔で進み出る。


男は、深く頭を下げた。


「ありがとう」


「お前の父が、

 命を賭して守ってくれたこの村を」


「今度は、

 お前が守ってくれた」


ざわめき。


誰かが言う。


「剣鬼の娘だ」

「……ああ、そうだな」


ニアは、

慌てて首を振った。


「私一人じゃ……」


だが、

言葉は続かなかった。


村の女たちが、

子供を連れて前へ出る。


「あの夜……」

「逃げろって、

 あなたのお父さんが……」


子供が、

ニアの服を掴む。


「……おねえちゃん」


ニアの喉が、

小さく鳴った。



年配の男が、

剣を差し出す。


それは、

剣鬼が使っていたものではない。


村に残っていた、

素朴な守りの剣。


「この村には、

 もう剣鬼はいない」


「だが――」


男は、

はっきりと言った。


「守る剣は、必要だ」


「ニア」


「この村の、

 守護騎士になってくれ」


沈黙。


ニアは、

剣を見る。


震える手で、

それを受け取る。


「……私に、

 出来るでしょうか」


誰かが、

即座に答えた。


「もう、してる」


ニアは、

ゆっくりと頷いた。


「……はい」


その声は、

はっきりしていた。



少し離れた場所で。


トヨフサは、

その様子を静かに見ていた。


セレナ

「……良かったですね」


トヨフサ

「ああ」


「剣は……

 こう使われるべきだ」



数日後。


一通の知らせが、

村に届く。


封蝋付きの正式文書。


送り主は――

祝福騎士団・議会経由の通達。


そこには、

簡潔に書かれていた。


本村は、

今後いかなる理由においても

イシバ家の管轄外とする。


祝福騎士団による

介入・派遣・徴発を禁ずる。


村人たちが、

息を呑む。


「……こんな事が……」


セレナが、

小さく微笑む。


「……アークさん、ですね」


トヨフサ

「だろうな」


遠く離れた場所で、

灰王連合の盾は、

確かに働いていた。


剣ではなく、

立場と理で。



ニアは、

新しい剣を腰に差し、

村の外れに立つ。


見張り台ではない。


ただ、

人の通る道。


トヨフサが、

声をかける。


「……守護騎士、か」


ニア

「……まだ、

 慣れません」


トヨフサ

「慣れる必要はねぇ」


「守るってのは、

 覚悟があれば足りる」


ニアは、

空を見上げた。


「……父は」


トヨフサ

「誇りを、

 置いていった」


「だから、

 お前はここに立てる」


ニアは、

深く息を吸い――

前を見た。


「……はい」



その背中を、

村が支える。


剣鬼の剣は、

もう振るわれない。


だが――

剣鬼の意志は、

 確かにここに残った。


守る剣として。


そして。


イシバ家の紋章が、

二度とこの村に掲げられることは、

なかった。

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