新章・第十八話 守る剣の名
村に、朝が戻ってきた。
逃げ惑っていた人々が、
恐る恐る家の外へ出る。
壊された柵。
踏み荒らされた畑。
それでも――
誰一人、欠けていない。
その事実が、
何よりの勝利だった。
◆
広場に、人が集まる。
年配の男が、
一歩前へ出た。
「……ニア」
呼ばれた少女は、
少しだけ緊張した顔で進み出る。
男は、深く頭を下げた。
「ありがとう」
「お前の父が、
命を賭して守ってくれたこの村を」
「今度は、
お前が守ってくれた」
ざわめき。
誰かが言う。
「剣鬼の娘だ」
「……ああ、そうだな」
ニアは、
慌てて首を振った。
「私一人じゃ……」
だが、
言葉は続かなかった。
村の女たちが、
子供を連れて前へ出る。
「あの夜……」
「逃げろって、
あなたのお父さんが……」
子供が、
ニアの服を掴む。
「……おねえちゃん」
ニアの喉が、
小さく鳴った。
◆
年配の男が、
剣を差し出す。
それは、
剣鬼が使っていたものではない。
村に残っていた、
素朴な守りの剣。
「この村には、
もう剣鬼はいない」
「だが――」
男は、
はっきりと言った。
「守る剣は、必要だ」
「ニア」
「この村の、
守護騎士になってくれ」
沈黙。
ニアは、
剣を見る。
震える手で、
それを受け取る。
「……私に、
出来るでしょうか」
誰かが、
即座に答えた。
「もう、してる」
ニアは、
ゆっくりと頷いた。
「……はい」
その声は、
はっきりしていた。
◆
少し離れた場所で。
トヨフサは、
その様子を静かに見ていた。
セレナ
「……良かったですね」
トヨフサ
「ああ」
「剣は……
こう使われるべきだ」
◆
数日後。
一通の知らせが、
村に届く。
封蝋付きの正式文書。
送り主は――
祝福騎士団・議会経由の通達。
そこには、
簡潔に書かれていた。
本村は、
今後いかなる理由においても
イシバ家の管轄外とする。
祝福騎士団による
介入・派遣・徴発を禁ずる。
村人たちが、
息を呑む。
「……こんな事が……」
セレナが、
小さく微笑む。
「……アークさん、ですね」
トヨフサ
「だろうな」
遠く離れた場所で、
灰王連合の盾は、
確かに働いていた。
剣ではなく、
立場と理で。
◆
ニアは、
新しい剣を腰に差し、
村の外れに立つ。
見張り台ではない。
ただ、
人の通る道。
トヨフサが、
声をかける。
「……守護騎士、か」
ニア
「……まだ、
慣れません」
トヨフサ
「慣れる必要はねぇ」
「守るってのは、
覚悟があれば足りる」
ニアは、
空を見上げた。
「……父は」
トヨフサ
「誇りを、
置いていった」
「だから、
お前はここに立てる」
ニアは、
深く息を吸い――
前を見た。
「……はい」
◆
その背中を、
村が支える。
剣鬼の剣は、
もう振るわれない。
だが――
剣鬼の意志は、
確かにここに残った。
守る剣として。
そして。
イシバ家の紋章が、
二度とこの村に掲げられることは、
なかった。




