表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/203

新章・第十七話 剣は、ここで終わる

夜が、完全に明けきらない。


森の奥で、

人外となった剣聖が立っていた。


剣と融合した右腕。

歪んだ祝福の紋様。

もはや騎士でも、人でもない。


「……来い」


声は、二重に重なる。


「誇りの剣で、

 どこまでやれるか見せてみろ」


トヨフサは、

ゆっくりと前へ出た。


剣を構える。


もう、殿ではない。

守る背中も、

逃がす者もいない。


ここは――

剣士同士の終点。



剣聖が踏み込む。


今までとは違う。


速さでも、

重さでもない。


世界を削る剣。


一太刀ごとに、

空間が裂ける。


トヨフサは、

受けきれない。


避ける。

流す。

それでも、

傷が増える。


「……どうした!」


剣聖が叫ぶ。


「止める剣だろう!

 なら――止めてみろ!!」


トヨフサは、

息を整える。


(……焦るな)


(止めるってのは――)


(全部受けることじゃねぇ)



その時。


背後で、

風が止んだ。


剣聖の兄の霊が、

最後に姿を現す。


だが、

もう言葉はない。


ただ――

剣を置く姿勢を見せる。


踏み込みすぎない。

構えすぎない。


「……そうか」


トヨフサは、

小さく呟いた。


「止めるってのは……

 終わらせる場所を決めることだ」



剣聖が、

最後の力で突っ込む。


「勝てばいい!!

 それだけだぁぁ!!」


剣が、

巨大な一本の“線”になる。


トヨフサは、

一歩も下がらない。


踏み込む。


――ただ一歩。


剣を、

横に振る。


力も、

技も、

誇張はない。


だが――

剣聖の剣の“根”を斬った。


音が、

一瞬遅れて届く。


――ズン。


人外剣聖の身体が、

真っ二つに割れた。



剣聖は、

その場に立ったまま、

崩れない。


だが、

力は流れ落ちていく。


「……兄、か……」


声が、

元の人の声に戻る。


「……俺は……」


剣聖の兄の霊が、

静かに頷いた。


『……もう、いい』


剣聖は、

空を見上げ――

力なく、笑った。


「……剣を……

 信じてみれば……

 よかったな……」


次の瞬間。


身体は、

静かに崩れ落ち、

剣だけが地面に残った。


剣の眷属の気配は、

完全に消えていた。



トヨフサは、

剣を下ろした。


息が、

大きく漏れる。


「……終わったぞ」


その声に、

森の奥から人影が現れる。


ニアだった。


震えながら、

それでも、

まっすぐ歩いてくる。


地面に残った剣を見て、

深く、頭を下げた。


「……父の仇は……」


トヨフサ

「ああ」


「剣士として、

 終わらせた」


ニアは、

目を閉じ――

静かに泣いた。


叫ばない。

怒らない。


それが、

剣鬼の娘の弔いだった。



剣聖の兄の霊は、

最後にトヨフサを見た。


『ありがとう』


『弟は……

 これで、剣から解放された』


その姿は、

朝の光に溶けて消える。



トヨフサは、

剣を拭い、鞘に収める。


「……行くか」


ニアが、

小さく頷く。


「はい」


二人は、

剣塚の谷へ向かう道へ戻る。


背後には、

斬られた誇りなき剣。


前には、

まだ折れていない剣。


この戦いで、

トヨフサは理解した。


殿とは、

 最後に立つ者ではない。


最後に、

 終わらせる者だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ