表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/203

新章・第十六話 剣を止める者

世界が、歪んだ。


剣聖だったものが、一歩踏み出す。


その一歩で、

地面が砕け、

空気が悲鳴を上げる。


「……来るぞ」


トヨフサは、

反射的に構えた。


だが――


間に合わない。


剣が、

距離という概念を無視して迫る。


――ズンッ!!


間一髪。


刀で受けた瞬間、

腕が痺れ、

足が沈む。


「……っ!」


剣聖(人外)

「どうした?」


声が、

二重に重なる。


「さっきまでの余裕は?」


二撃、三撃。


速さではない。

重さでもない。


“剣そのものが迫ってくる”感覚。


トヨフサは、

後退を余儀なくされる。


初めて、

殿が下がる。



剣聖

「誇りだ、立ち方だと?」


「そんなもの、

 剣には不要だ」


振り下ろされる刃。


トヨフサは、

受けきれず――

吹き飛ばされる。


背中を木に叩きつけ、

息が詰まる。


(……くそ)


(人をやめた分、

 遠慮がねぇ)


剣聖

「逃げろ」


嘲るような声。


「逃げれば、

 見逃してやる」


トヨフサは、

立ち上がる。


血を吐きながら。


「……殿が、

 逃げるかよ」


剣を、

強く握る。


だが――

剣が、重い。


(……まだ、足りねぇ)



その時。


剣聖の背後に、

もう一つの影が立った。


誰にも見えない。

だが、確かに“いる”。


静かな声。


『……もう、やめろ』


剣聖

「……あ?」


一瞬、

動きが止まる。


『弟よ』


『そこまでして、

 剣を汚すのか』


剣聖

「……黙れ……!」


剣の眷属の力が、

荒れ狂う。


だが――

影は消えない。


トヨフサの横に、

静かに立つ。


『君』


声が、

トヨフサにだけ届く。


『その剣は、

 人を守る剣だ』


トヨフサ

「……誰だ」


『名乗る資格はない』


『だが――』


『弟を、止めてくれ』


トヨフサの胸に、

何かが落ちた。


重いが、

嫌ではない。


(……ああ)


(だから、

 あいつの剣は軽かったのか)



影が、

そっと手を伸ばす。


トヨフサの構えが、

自然に変わる。


力を入れない。

だが、抜けてもいない。


“そこに在る剣”。


剣聖が、

再び踏み込む。


――だが。


カン。


今度は、

衝撃が違う。


押し負けない。


剣聖

「……何をした?」


トヨフサ

「さぁな」


小さく笑う。


「でも……

 逃げ場が、見えた」


影が、

静かに頷く。


『それでいい』


『剣は、

 斬るために振るものじゃない』


『止めるために、置くものだ』



剣聖の剣が、

弾かれる。


一瞬の隙。


剣聖

「……兄、か……」


呻くような声。


怒りと、

怯えが混じる。


「まだ……

 俺を縛るのか……!」


影は、

悲しげに首を振った。


『縛ってなどいない』


『救おうとしている』


トヨフサは、

剣を構え直す。


もう、迷いはない。


「聞いたろ」


「……止めるってよ」


剣聖は、

狂ったように笑った。


「出来るものか……!」


だが――

その剣は、

もう一直線ではなかった。



人外剣聖が、

再び距離を取る。


完全な敗北ではない。

だが、

一方的でもなくなった。


影は、

少しずつ薄れていく。


『……時間は、ない』


『君に託す』


『弟を……

 人に戻すか、

 終わらせてくれ』


トヨフサは、

深く頷いた。


「任せろ」


影は、

微かに笑い――

消えた。


剣聖は、

荒い息を吐く。


「……次は、

 殺す」


トヨフサ

「次は、

 終わらせる」


二人の間で、

剣が鳴る。


勝敗は、

まだ決していない。


だが――

トヨフサは、確実に一段上へ行った。


剣を捨てた者と、

剣を背負った者。


次に斬られるのは、

その“生き方”だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ