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新章・第十二話 逃げ延びた場所

村は、地図にすら載らない場所にあった。


山と山の隙間。

獣道の先。

わざわざ“選ばなければ辿り着けない”土地。


トヨフサは、村の入口で足を止めた。


「……ここだな」


ニアが、わずかに震える息を吐く。


「……はい」


柵は簡素。

だが、新しい。


家々も、急ごしらえだと分かる。

それでも――

人の気配が、確かにあった。


子供の笑い声。

水を汲む音。

鍋の匂い。


“生き延びた村”の音だった。



最初に気づいたのは、年配の女性だった。


「あ……」


視線が、

ニアに釘付けになる。


「……ニア?」


その名を呼ばれた瞬間、

ニアの足が止まった。


「……おばさん……」


次の瞬間、

人が集まる。


老人。

母親。

子供たち。


泣く者はいない。

叫ぶ者もいない。


ただ――

確かめるように、触れる。


「生きてた……」

「本当に……」


ニアは、

何度も頷いた。


「……父が」


言葉が、詰まる。


だが、

誰も続きを求めなかった。


分かっていたからだ。



夜。


村の広場で、

小さな火が焚かれる。


食事は質素だが、

十分だった。


トヨフサは、

端に腰を下ろし、周囲を見渡す。


(……ここは)


(戦場じゃない)


(だからこそ――)


セレナが、

静かに言う。


「……嫌な感じがします」


トヨフサ

「ああ」


視線を、

村の外へ向ける。


「逃げた場所は、

 追われる場所でもある」


ニアは、

焚き火の向こうで拳を握っていた。


「……ここは」


声が、低い。


「父が……

 “ここまで行け”って」


「女子供を……

 押し出すみたいに……」


トヨフサは、

ゆっくりと言った。


「いい場所だ」


ニア

「……でも」


トヨフサ

「だからこそ、

 目立つ」


セレナが、

はっとする。


「剣聖は……」


トヨフサ

「ああ」


「剣鬼が守った“命”を、

 もう一度叩きに来る」



その夜。


トヨフサは、

眠らなかった。


村の外れ。

丘の上。


剣を地面に突き立て、

夜を見張る。


風が、変わった。


遠くで――

鉄の音。


(……来るな)


(だが、

 来る理由は十分だ)


剣鬼が命を賭して逃がした村。


剣聖にとっては――

消さなければならない証拠。


トヨフサは、

静かに呟く。


「……ニア」


「これは、

 逃げる戦いになる」


「それでも――」


剣を握る。


「今度は、

 守る側が一人じゃない」


村の灯りが、

小さく揺れている。


まだ、

何も起きていない。


だが――

剣聖は、

 必ずここへ来る。


次の夜明けは、

剣を選ぶ夜明けになる。

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