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新章・第十一話 剣を捨てた者に、剣が与えられる

――私は、剣を信じていなかった。


兄は信じていた。

剣に誇りがあり、

剣に意味があり、

剣士とはそうあるべきだと。


だから――

殺した。


夜。

酒を勧め、

背後から喉を裂いた。


剣は使わない。

剣は、

信じている者が持つものだ。


私は、勝つために生きる。



剣聖と呼ばれるようになってから、

私は一度も正面で負けていない。


祝福。

騎士団。

数。


それだけあれば、

剣など不要だった。


だが――

剣鬼は違った。


里の中央に立つその男を見た瞬間、

理解した。


(……勝てない)


一対一では、

絶対に。


剣鬼の剣は、

正しく、

迷いがなく、

私の“勝ち筋”をすべて潰していた。


だから、迷わなかった。


「囲め」


剣鬼は、

静かに言った。


「……剣士の戦いではないな」


私は、笑った。


「剣士の戦いなど、

 勝った者が決める」



私は、

最初から剣鬼を狙っていなかった。


狙ったのは――

里だ。


女子供。

逃げ惑う背中。


「斬れ」


騎士たちが、

躊躇いながらも剣を振る。


剣鬼が、

咆哮した。


「やめろォォォ!!」


剣が舞う。


剣鬼は、

私ではなく――

里を守る位置に立った。


(そうだ)


(それでいい)


守る剣は、

遅れる。


背中が、空く。


「今だ」


背後から、

騎士の剣が突き立つ。


剣鬼は、

それでも立ち続けた。


「……子供を……

 逃がせ……」


私は、

その姿を見て確信した。


(ああ)


(この男は、

 剣に殉じる)


だから――

剣に殺されるべきだ。


最後の一太刀は、

私が振る必要すらなかった。



夜。


焼け落ちた里の跡。


剣鬼の死体の前で、

私は立っていた。


勝った。


だが――

胸の奥が、冷たい。


(……次は、俺か)


その時。


剣が、そこにあった。


否。

剣の“形をした意思”。


剣の眷属。


『卑怯だな』


私は、即座に膝をついた。


「勝ちました」


『剣鬼に、

 正面では勝てなかった』


否定できない。


『だから、数を使った』


「はい」


『だから、

 剣を捨てた』


私は、

一切の躊躇なく答えた。


「はい」


剣の眷属は、

わずかに愉快そうだった。


『……良い』


『剣を信じぬ者は、

 剣を“使える”』


『人の限界を超えたいか』


答えは、決まっている。


「当然です」



剣が、

私の中に流れ込んだ。


骨が、軋む。

血が、沸く。


祝福とは違う。

呪いでもない。


理そのものが、歪められる感覚。


『剣は、

 斬るためのものではない』


『勝つための“現象”だ』


私は、

笑った。


(……これでいい)


(これで、

 剣鬼のような剣士も、

 正面から潰せる)


私は、

もう人ではない。


剣を利用する存在だ。



だから。


剣鬼の娘が生きていようと、

祝福なき剣が迫っていようと、

恐れはない。


私は、

数で潰す。


力で潰す。


剣の眷属から与えられた力で、

 誇りを信じる剣を、

 すべて叩き折る。


それが――

私の剣。


それが――

私が剣聖である理由だ。

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