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新章・第十話 誇りなき剣の、その先で



峠を越えた先の小さな村。


夕暮れの畑道に、

一人の少女が立っていた。


剣を抱え、

泥だらけの足で。


逃げてきた、

というより――

辿り着いた、という立ち姿だった。


トヨフサは、自然と歩みを緩めた。


「……あんた」


少女は、顔を上げる。


目が、

剣を知っている目だった。


「近づかないで」


声は、震えていない。


だが、

剣を握る手は、限界だった。


セレナが、

一歩前に出る。


「怪我しています。

 私たちは――」


少女

「……祝福騎士じゃない?」


トヨフサ

「違う」


即答だった。


「剣で飯食ってるだけの人間だ」


少女は、

その言葉を何度か噛みしめ――

やがて、膝をついた。



焚き火の前。


セレナが手当てをしながら、

静かに問いかける。


「……どこから来たのですか」


少女は、

しばらく黙っていたが――

やがて、ぽつりと語り出した。


「……剣鬼の里」


その言葉に、

トヨフサの視線が鋭くなる。


「父が、

 “剣鬼”と呼ばれていました」


剣姫――

だが、今はまだ名乗らない。


「里は、

 剣聖の騎士団に襲われました」


セレナ

「……剣聖、ですか」


少女は、

はっきりと頷いた。


「西洋の剣聖」


「一対一なら、

 父は……負けていませんでした」


焚き火が、

ぱちりと鳴る。


少女

「でも……」


拳を、

強く握る。


「囲んだんです」


「何十人も」


「剣士として、

 ありえない戦い方で」


トヨフサ

「……」


少女

「それでも父は、

 剣を振り続けました」


「私たちを……

 女子供を逃がすために」


声が、

一瞬だけ震えた。


「父は、

 最後まで前に立って……」


「近くの村まで行け、と」


「……それだけを言って、

 殺されました」


沈黙。


誇りのない剣。

誇りを貫いた剣。


その対比が、

重く残る。


セレナ

「……あなたは」


少女

「ニア」


名だけを、告げた。


「復讐を誓いました」


迷いのない声。


「剣聖を、

 そして……」


少し、目を伏せる。


「誇りを捨てた剣を」


トヨフサは、

ニアの剣を見る。


粗末だ。

だが、

捨てられてはいない。


トヨフサ

「……一つ聞く」


ニア

「……何ですか」


トヨフサ

「復讐の先に、

 何があるか考えたか」


ニアは、

答えなかった。


それが、答えだった。


トヨフサは、

焚き火を見つめながら言う。


「俺は、

 剣聖を追ってる」


ニアの顔が、

はっと上がる。


トヨフサ

「理由は違う」


「でも……

 行き着く場所は同じだ」


ニア

「……一緒に、行っても?」


トヨフサは、

すぐには答えなかった。


剣を背負い、

静かに言う。


「いい」


「ただし――」


ニア

「?」


トヨフサ

「誇りを捨てたら、

 その時は俺が止める」


ニアは、

強く頷いた。


「……はい」


焚き火が、

静かに燃える。


剣聖は、

誇りを数で踏み潰した。


だが――

逃がされた命が、

今、再び剣を取っている。


剣塚の谷へ向かう旅は、

復讐と、誇りの境界線へと変わっていった。

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