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新章・第七話 梅は重なり、剣は測られる

山道に、梅が咲いていた。


一輪ではない。

一本の木でもない。


十四の構えが、

空気に花を咲かせている。


トヨフサは、足を止めた。


「……なるほど」


セレナ

「剣気が……

 一つじゃありません」


その中心に立つ男。


黒髪を束ね、

細身の剣を静かに構える。


額には、赤黒い一本角。


「崋山派・鬼剣

 沈玄しんげん


「十四手梅花剣法」


淡々と告げる。


「十四の剣法を持つ流派だ」


トヨフサ

「十四回斬るって意味じゃねぇんだな」


沈玄

「理解が早い」


一歩、踏み出す。


「第一手・寒梅探路」


剣が、低く走る。


直線。

無駄のない一閃。


トヨフサは、

半身でかわす。


(……速い)


沈玄

「第二手・疎影横斜」


次は、

角度が変わる。


斬撃ではない。

間合いそのものをずらす剣。


トヨフサは、

一歩遅れた。


袖が裂ける。


沈玄

「第三手・暗香浮動」


今度は、

姿が消えた。


否――

気配だけが残る。


トヨフサは、

背後を斬る。


――カァン。


剣と剣が噛み合う。


沈玄

「第四手」


「第五手」


沈玄は、

止まらない。


一手ごとに、

剣の意味が変わる。


斬る。

誘う。

測る。

閉じる。


十四手すべてが、

役割の違う剣法。


セレナは、

戦慄していた。


(……これが)


(技の数じゃない)


(剣理の引き出しそのもの)


トヨフサは、

呼吸を深くする。


(全部、別の剣か)


(……なら)


刀を、

低く構え直す。


沈玄

「第八手・――」


トヨフサ

「もういい」


一歩、前。


沈玄の剣が、

止まる。


トヨフサ

「十四全部、

 同じ場所に帰ってくる」


沈玄

「……何?」


トヨフサ

「“理”だ」


足元を踏みしめる。


「剣の答えは、

 型の数じゃねぇ」


沈玄

「戯言だ」


身体が、折れる。


蛇心行功じゃしんこう


異様な体捌き。


関節の角度を無視し、

蛇のように間合いを詰める。


沈玄

「第十二手――!」


刃が、喉へ。


だが。


置かれていた。


トヨフサの刀が。


沈玄

「……!」


トヨフサ

「十四手、

 全部“来る場所”は一緒だ」


「剣を振る理由が、

 変わってねぇ」


沈玄は、

ゆっくりと距離を取る。


そして――

剣を下ろした。


「……未完成だが」


沈玄

「剣として、筋は通っている」


梅の花が、

一斉に散る。


それは、

技の終わり。


沈玄

「剣の眷属に伝えよう」


「この剣は、

 “型”を超える可能性がある」


最後に、

静かな声。


「次は――

 力の剣だ」


沈玄の姿は、

霧のように消えた。



トヨフサは、

刀を見下ろす。


刃の反りが、

より明確になっていた。


セレナ

「……剣が」


トヨフサ

「ああ」


小さく笑う。


「俺の考え方に、

 合わせてきやがる」


十四手梅花剣法。


それは、

“型の多さ”ではなく、

剣理の深さを示すもの。


そしてトヨフサは、

それを一つの答えで受け止めた。


剣塚の谷は、

まだ遠い。


だが――

一つ目の関門は、越えた。


次に待つのは、

圧倒的な“力”の剣。

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