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新章・第六話 剣の眷属、その配下たち

その夜。


トヨフサが眠りについた頃――

世界のどこかで、剣が抜かれた。



血の匂いが、霧の谷を満たしていた。


石畳に座す一人の男。


黒髪を後ろで束ね、

長剣を膝に置く。


その剣は、

細く、真っ直ぐで、

一切の装飾がなかった。


「……つまらぬ」


低く呟く。


倒れているのは、

数十人の剣士。


一太刀で終わっている。


男は、鬼人だった。


額には、

赤黒い角が一本。


――崋山派・鬼剣

 “羅刹剣らせつけん沈玄しんげん


「剣とは、理をなぞるもの」


「力を込めるなど、下の下だ」


彼の背後、

空間がわずかに歪む。


『剣塚の谷へ向かう剣がある』


声はない。

だが、剣は理解した。


沈玄は、

静かに立ち上がる。


「……観に行くか」



荒野。


月明かりの下、

巨大な影が立っていた。


全身を覆う、

古びた鎧。


だが、その内側にある肉体は、

人ではない。


二本の角。

異様な筋肉。


手にしているのは、

幅広の大剣。


地面に突き立てるだけで、

岩が砕ける。


「……また、試されるのか」


低く、重い声。


――**西方剣聖

 “断界だんかいのグレゴール”】【※通称:剣聖】


彼もまた、

鬼人。


人の剣士が到達できなかった領域に、

力で踏み込んだ存在。


空間の歪みを、

一瞥する。


「剣の眷属が動いたか」


「ならば……

 我も剣を振る理由ができた」



そして。


最も静かな場所。


竹林。


風が揺れるだけで、

音はない。


そこに、一人の男がいた。


着物。

刀。


姿は、

人間と変わらない。


だが――

目が違う。


一切の迷いが、ない。


「……」


鞘に手を添えたまま、

一歩も動かず。


――最強の武士

 “無明ノ鬼・兼続かねつぐ


彼は、

鬼人であることすら

忘れている。


剣とは、

生き方。


斬る理由も、

斬らぬ理由も、

同じ重さで持つ。


その前に、

影が差す。


剣の眷属。


姿は、

やはり完全には現れない。


『剣塚の谷に、

 祝福に属さぬ剣が向かっている』


兼続は、

わずかに目を細めた。


「……ほう」


『確かめよ』


『その剣が、

 資格を持つかどうかを』


兼続は、

静かに頷いた。


「承知した」


「もし未熟なら、

 私が斬る」


「もし――」


一瞬、

風が止まる。


「剣であるなら、

 命を賭して迎えよう」



同じ頃。


焚き火の前で、

トヨフサは、ふと目を覚ました。


理由は分からない。


だが――

剣が、震えている。


セレナ

「……今の、感じましたか?」


トヨフサ

「ああ」


刀身に近づく。


「……三つ、だな」


セレナ

「三つ?」


トヨフサ

「強ぇ剣が、

 こっちを見てる」


剣塚の谷は、まだ遠い。


だが――

谷へ至る道には、

 すでに三本の刃が待っていた。


剣の眷属は、

自らは動かない。


その代わりに、

世界最高峰の剣を放つ。


それは、

選別。


そして――

本当に“剣を名乗れるか”を試すための、儀式。


旅は、

静かにだが確実に、

死地へ近づいていた。

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