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新章・第五話 剣は、持ち主に似ていく

剣塚の谷までは、遠い。


街道を外れ、山を越え、

いくつもの小さな集落を抜ける必要があった。


「……思ったより歩くな」


トヨフサは、肩に剣を担ぎながら言った。


セレナ

「ええ。

 剣士が集まる場所は、

 だいたい不便な所にあります」


トヨフサ

「分かる気がする」


剣を見下ろす。


「近かったら、

 余計な連中も集まるしな」



道中、戦いはあった。


魔獣。

盗賊。

祝福を頼りに威張る傭兵。


だが――

戦い方が、少しずつ変わっていく。


トヨフサは、

以前のように力任せに振らなくなっていた。


一歩、置く。

一歩、踏み込む。


斬らずに、終わらせる。


剣を“振る”前に、

相手が崩れる。


セレナは、その変化に気づいていた。


(……速くなっている)


(違う……

 迷いが、消えている)


トヨフサ本人は、

相変わらず首を傾げている。


「……今の、

 避ける必要あったか?」


セレナ

「十分すぎるほど、

 洗練されています」


トヨフサ

「そうか?」


本気で分からない顔だった。


(ロイさんなら、

 もっと簡単に終わらせてたしな……)


基準は、まだ灰王だった。



ある夜。


山中の野営地で、

トヨフサは剣を手入れしていた。


ふと、

刃に違和感を覚える。


「……?」


刃の形が、

わずかに変わっている。


直剣だったはずの剣先が、

ほんの少しだけ反っていた。


トヨフサ

「……おい」


セレナも、覗き込む。


「……これは……」


祝福の気配は、ない。

呪いの反応も、ない。


ただ、

剣そのものが――


自然に変わっている。


トヨフサ

「成長……してんのか?」


セレナ

「……いえ」


首を横に振る。


「合わせているのだと思います」


トヨフサ

「合わせる?」


セレナ

「あなたの動きに。

 呼吸に。

 剣の振り出しに」


トヨフサは、

ゆっくりと剣を構えた。


すると――

柄の位置が、しっくり来る。


振り抜いた瞬間、

刃の軌道が、無理なく円を描いた。


「……」


トヨフサは、

小さく息を吐いた。


「……ああ」


「これ、

 俺の振り方だ」


セレナは、

静かに言った。


「ロイの剣は、

 ロイに最適化された剣でした」


「今は……

 あなたに最適化され始めています」


刃の反りは、

まだ浅い。


だが確かに、

刀に近づいている。


トヨフサ

「……日本人に、

 合わせてきたな」


照れたように笑う。


「気が利く剣だ」



翌日。


剣を抜いたトヨフサの動きは、

さらに滑らかになっていた。


振り上げ。

返し。

納刀。


すべてが、

一つの流れになる。


斬撃は、

鋭く、速い。


だが、

どこか静かだった。


セレナは、

その背中を見ながら思う。


(……これは)


(祝福でも、

 呪いでもない)


(祈りと、生活の延長にある剣)


トヨフサは、

刀身を見つめて呟いた。


「剣ってさ」


セレナ

「はい」


トヨフサ

「振るためのもんじゃねぇな」


鞘に収める。


「生き方に、

 ついてくるもんだ」


遠く、山の向こう。


剣塚の谷は、

まだ見えない。


だが――

剣は、確実に“谷へ向かう形”になっていた。


そして、

剣の眷属が確かめるのは、

もう“才能”ではない。


どこまで、

 剣と一体になったかだ。


旅は続く。


剣と共に。

少しずつ、

“自分の剣”になるために。

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