新章・第四話 剣の痕を追って
街外れの古道。
トヨフサは、地面に残った傷跡を見下ろしていた。
「……これ、斬撃だよな」
セレナが隣に膝をつく。
「はい。
ですが……普通の剣ではありません」
地面は、抉れているのではない。
“削ぎ落とされている”。
まるで、
世界そのものが薄く切り取られたかのような痕。
トヨフサ
「……嫌な斬り方だな」
セレナ
「祝福の反応が……ありません」
眉をひそめる。
「祝福由来の戦闘なら、
必ず残留があるはずですが……」
トヨフサは、
無意識に自分の剣を握った。
(……似てる)
ロイの剣。
祝福にも、呪いにも属さない斬り味。
だが、
これは違う。
もっと冷たい。
もっと“完成している”。
◆
古道沿いの村。
数日前まで人がいた形跡はあるが、
今は静まり返っている。
家は壊れていない。
血の跡もない。
「……逃げた、というより」
トヨフサ
「“退いた”って感じだな」
セレナ
「はい」
村の中央。
一本の杭が立てられていた。
布切れが、
剣の形に裂かれて、結ばれている。
セレナ
「……警告、でしょうか」
トヨフサ
「剣の、な」
杭の根元に、
小さな石板が置かれていた。
文字は、古い。
だが、
トヨフサでも読めた。
――未熟な刃は、触れるな
トヨフサ
「……随分、偉そうだ」
だが、
背中に冷たい汗が流れる。
(俺に向けて、だな)
◆
夜。
焚き火の前。
セレナは、
静かに目を閉じて祈っていた。
祝福ではない。
ただ、耳を澄ますための祈り。
やがて、
ゆっくりと目を開ける。
「……剣の眷属は」
トヨフサ
「何か分かったか」
セレナ
「移動しています」
地図を指す。
「一定の方向性がありません。
ですが……」
指が、
円を描く。
「“強い剣”を避け、
“育ちそうな剣”の近くを通っている」
トヨフサ
「……育成してる、ってことか?」
セレナ
「選別、でしょう」
一拍。
「そして――
あなたは、
完全に観測対象です」
トヨフサは、
鼻で笑った。
「光栄だな」
だが、
視線は真剣だった。
「ロイさんが動けねぇ今、
俺が“試される”ってわけだ」
セレナ
「……はい」
焚き火が、
ぱちりと爆ぜる。
トヨフサは、
夜空を見上げた。
「だったら、
探しに行くしかねぇな」
セレナ
「正面から、ですか?」
トヨフサ
「いや」
剣を担ぐ。
「向こうが出てきたくなる場所に行く」
セレナ
「……どこへ?」
トヨフサは、
地図の一点を指した。
そこは、
剣士が集まることで知られる土地。
「剣塚の谷」
セレナは、
息を呑んだ。
「……剣の眷属が、
無視できる場所ではありません」
トヨフサ
「だろ?」
にやりと笑う。
「だから行く」
焚き火を消し、
二人は立ち上がる。
剣の眷属を探す旅は、
追う側と、選ばれる側が逆転する局面へ入った。
この先で――
本当に斬られるのは、
剣か。
それとも、覚悟か。




