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新章・第三話  噂になる剣、立てられる男爵

祝福騎士団・本部詰所。


円卓の上に、

複数の報告書が並べられていた。


「……またか」


一人の騎士が、低く呟く。


「第四都市。

 第六街区。

 イシバ男爵配下、祝福騎士二名が重傷」


別の者が続ける。


「住民への被害はなし。

 むしろ……」


一瞬、言い淀み。


「感謝されている」


室内に、微妙な沈黙が落ちた。


「……祝福騎士が殴られて、

 住民に感謝される、か」


「原因は?」


報告役が答える。


「例の噂の人物です」


「祝福が効かない日本人……?」


「はい。

 ただし、騎士側に問題がありました」


書類が、

イシバ男爵の名で留められている。


「配下が、

 畑と物資を“祝福騎士の権限”として徴発」


「……古いな」


誰かが、吐き捨てるように言った。


「ええ」


報告役は頷いた。


「祝福を持つ者が上。

 持たぬ者は従うべき

 ――その時代の発想です」


ざわめきが起こる。


「だがイシバ男爵は、

 今も功績ある古参だぞ」

「名門だ。

 そう簡単には――」


その時。


円卓の端で、

静かに腕を組んでいた男が口を開いた。


アークだった。


「……イシバ男爵の名を、

 ここで直接出すのは得策じゃありません」


視線が集まる。


アーク

「男爵自身が命じた証拠はない。

 配下の暴走として処理すべきです」


一瞬、

空気が張り詰める。


だが、すぐに数名が頷いた。


「……妥当だな」

「男爵の顔を潰すわけにもいかん」


アークは、

穏やかに続ける。


「古参の祝福主義は、

 今の時代に合わなくなっている」


「ですが」


一拍。


「それを“変える役目”は、

 まだイシバ男爵に残っている」


誰も、反論しなかった。



会議が終わり、

廊下に出る。


若い騎士が、

アークに小声で尋ねた。


「……本当に、

 配下だけの問題でしょうか」


アークは、

少しだけ笑った。


「さあ」


「でもね」


足を止め、

振り返る。


「立場がある人間は、

 全部を正直に言えない」


若い騎士

「……」


アークは、

遠くを見るような目をした。


「イシバ男爵は、

 変われるかもしれない」


「変われないかもしれない」


肩をすくめる。


「どっちにしても、

 今は“立てる”しかない」


若い騎士

「……アークさんは、それで納得しているんですか」


アークは、

一瞬だけ、表情を崩した。


「まさか」


小さく、だがはっきりと。


「こんな無能、

 私も立場がなかったら

 ボコボコにしたいですよ」


若い騎士

「……!」


アークは、

いつもの穏やかな顔に戻る。


「だからこそ、

 内側にいるんです」


歩き出しながら、呟く。


「外から殴る剣がいて、

 内側で立て直す盾がいる」


「……悪くない分業でしょう?」


その頃。


祝福騎士団の外では、

噂がさらに形を変えて広がっていた。


――イシバ男爵の名を出さず、

――古い祝福主義だけを殴り、

――住民だけを守る剣。


アークは、

その噂を聞きながら、静かに思う。


(ロイさん)


(あなたが壊した“正義”を)


(今、

 別のやり方で削ってる人がいます)


祝福騎士団は、

まだ崩れてはいない。


だが、

確実に揺れている。

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