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新章・第一話 基準が、灰王だった男

剣を振り下ろした感触が、軽すぎた。


トヨフサは、一瞬だけ首を傾げる。


「……あれ?」


足元には、倒れた魔獣が三体。

胴は裂け、首は落ち、

反撃の気配すらなかった。


セレナが、遅れて一歩前に出る。


「……終わりました?」


トヨフサ

「みたいだな」


剣を鞘に収めながら、

どこか釈然としない顔をする。


「思ったより、柔らかかった」


セレナ

「……柔らかい、ですか」


彼女は魔獣の死骸を見て、

小さく息を呑んだ。


(この個体……

 祝福騎士が三人がかりで

 ようやく抑える相手のはず……)


トヨフサは、

血を払うように剣を軽く振る。


「ロイさんなら、

 剣抜く前に終わってたな」


セレナ

「……それと比べるのは、

 基準が壊れています」


トヨフサ

「そうか?」


本気で分からなそうだった。



村の外れ。


壊れた柵の向こうから、

今度は盗賊が姿を現す。


「おい、剣置いて――」


言葉は最後まで続かなかった。


トヨフサが、一歩出る。


踏み込み。

腰。

視線。


剣は、振る前に決まる。


――ザン。


盗賊の武器が、

真っ二つに割れた。


トヨフサ

「危ねぇから、帰れ」


盗賊たちは、

悲鳴も上げずに逃げていった。


セレナは、

呆然と立ち尽くしていた。


「……トヨフサさん」


トヨフサ

「ん?」


セレナ

「今のは……

 威嚇ではありません」


トヨフサ

「そうか?」


首をひねる。


「斬ってねぇし」


セレナ

「剣を“置いただけ”で、

 武器が壊れました」


トヨフサ

「……へぇ」


興味なさそうに頷く。


「剣、良いなこれ」



夕暮れ。


焚き火の前で、

トヨフサは剣を手入れしていた。


セレナが、

小さく祈る。


祝福は使わない。

ただ、静かな祈り。


トヨフサは、

炎を見つめながら言った。


「なあ」


セレナ

「はい」


トヨフサ

「俺、強いか?」


唐突だった。


セレナは、

少し考えてから答える。


「……はい」


即答。


「間違いなく」


トヨフサ

「ロイさんより?」


セレナ

「それは……」


一瞬、言葉に詰まる。


「比べるものではありません」


トヨフサは、

納得したように笑った。


「だよな」


剣を鞘に収める。


「俺は、

 あの人が戻るまでの

 時間稼ぎだ」


セレナ

「……それだけ、ですか?」


トヨフサは、

夜空を見上げた。


「それで十分だろ」


彼はまだ知らない。


自分がすでに、

“前線に立つ器”であることを。


ただ一つ分かっているのは――


基準が、

あまりにも高すぎただけだ。


遠くで、

風が鳴った。


剣の眷属が、

次に確かめるための合図のように。

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