祝福なき剣、祈りを連れて
灰王連合の撤退は、迅速だった。
ロイは担架に乗せられ、
バルドルとアークを中心に、防衛陣形が組まれる。
誰も、無理に声をかけなかった。
今のロイに必要なのは、戦いではない。
――守られる時間。
トヨフサは、その光景を少し離れた場所から見ていた。
(……ああ)
(完全に、役目が分かれたな)
剣の眷属の言葉が、まだ耳に残っている。
――見届けた。
――次は、確かめに来る。
トヨフサは、剣の柄を握り直した。
「……行くか」
◆
夜。
焚き火のそばで、
一人の女性がロイの容態を診ていた。
白を基調とした法衣。
だが装飾は少なく、実戦向き。
灰王連合の神官――
セレナ。
彼女は、ロイの額に手を当て、
静かに首を振った。
「祝福の拘束は……
解けていません」
バルドル
「解除は?」
セレナ
「今の私では、
刺激になるだけです」
トヨフサ
「……つまり」
セレナは、はっきりと言った。
「ロイは、しばらく動けません」
沈黙。
だが、誰も驚かなかった。
皆、薄々わかっていた。
トヨフサは、一歩前に出る。
「なら、
俺が動く」
アークが、トヨフサを見る。
「……眷属を追うんですね」
トヨフサ
「ああ」
短く、確かな声。
「ロイが戻るまで、
時間を稼ぐ」
ロイは、薄く目を開けた。
「……無茶、すんな」
トヨフサは笑った。
「無茶しねぇ旅なんて、
退屈だろ」
ロイ
「……」
一拍。
ロイは、セレナを見る。
「……お前」
セレナ
「はい」
ロイ
「トヨフサについて行け」
セレナの目が、わずかに見開かれる。
「……私が、ですか?」
ロイ
「祝福を使わねぇ神官が、
一人必要だ」
トヨフサ
「?」
セレナは、少し考え――
そして、静かに頷いた。
「……わかりました」
立ち上がり、
トヨフサの前に立つ。
「セレナです。
神官ですが……」
少し、困ったように笑う。
「あなたには、
祝福は使いません」
トヨフサ
「……?」
セレナ
「祈るだけです」
トヨフサは、
一瞬きょとんとしてから――
豪快に笑った。
「そりゃ助かる!」
剣を担ぎ、
夜空を見上げる。
「祝福なき剣に、
祈りの同行者か」
ロイの方を振り返る。
「悪くねぇ旅だな」
ロイは、
静かに笑った。
「……死ぬなよ」
トヨフサ
「約束はしねぇ」
一歩、踏み出す。
セレナも、その横に並ぶ。
こうして――
祝福の外に立つ剣士
祝福に頼らない神官
二人の旅が、始まった。
灰王が最強を取り戻すための時間を稼ぐ旅。
そして、
剣の眷属に“確かめられる”その日へ向かう旅。
夜風が、
二人の背中を押していた。




