ロイVSトヨフサ
朝靄が、まだ地面に残っている。
ロイは静かに剣を構えていた。
対するトヨフサは、大剣を肩に担いだまま立っている。
「……で?」
トヨフサが首を傾げる。
「いつ始めんだ?」
ロイ
「もう始まってる」
次の瞬間。
ロイの姿が、一歩だけ消えた。
――カンッ!
トヨフサの大剣が、
反射的に横薙ぎに振るわれる。
刃と刃がぶつかり、
金属音が森に響いた。
ロイは眉をわずかに上げる。
(……反応、速ぇ)
トヨフサはニヤリと笑った。
「今の、
フェイントか?」
ロイ
「殺しに行ったつもりだ」
トヨフサ
「物騒だな」
だが足は止まらない。
トヨフサは、
型も構えも無視して踏み込んだ。
大剣を振り下ろす。
力任せ。
だが――
ロイは、剣を振らない。
一歩、横。
刃が空を切る。
ロイ
「無駄が多い」
トヨフサ
「わかってる!」
即座に切り返し。
今度は横薙ぎ。
ロイは剣で受けず、
柄で押し返す。
ガンッ。
トヨフサの体勢が、
わずかに崩れた。
ロイ
「重心が高ぇ」
トヨフサ
「細けぇな!」
叫びながら、
そのまま前に出る。
普通なら、
自滅行為だ。
だが――
ロイの目が、細くなる。
(……来る)
トヨフサは、
“崩れた体勢のまま”
次の一手を用意していた。
大剣を地面に突き立て、
反動で身体を回す。
予測外の角度。
ロイは一瞬、
半拍だけ遅れた。
――ガッ!
トヨフサの刃が、
ロイの肩口をかすめる。
布が裂ける音。
ロイ
「……」
トヨフサ
「当たった!」
ロイは、
ゆっくりと距離を取った。
「……今の」
剣を下げる。
「誰に習った?」
トヨフサ
「誰にも」
即答。
「死にたくなかったから、
勝手に考えた」
ロイは、
はっきりと笑った。
「……厄介だな」
次の瞬間。
ロイが踏み込む。
今度は――
本気。
速度が違う。
圧が違う。
トヨフサの視界から、
ロイが完全に消えた。
「――ッ!?」
背後。
首元に、
冷たい感触。
ロイの剣が、
寸止めで止まっている。
ロイ
「終わりだ」
トヨフサは、
一瞬だけ固まり――
次に、
大声で笑った。
「ははっ!!
負けた負けた!!」
大剣を地面に突き立て、
その場に座り込む。
「いやぁ……
すげぇな」
ロイ
「俺が?」
トヨフサ
「違ぇ」
ロイを見る。
「剣が、先に決まってやがる」
ロイは、
少しだけ目を細めた。
「……気づいたか」
トヨフサ
「振る前に、
もう“勝ってる剣”だ」
ロイ
「それが剣技だ」
トヨフサは、
汗を拭いながら言った。
「……でもさ」
ロイ
「?」
トヨフサ
「今の一瞬、
避けられなかっただろ」
ロイは、
否定しなかった。
「……ああ」
トヨフサ
「俺の剣、
まだ伸びるな」
自信満々に言い切る。
ロイは、
剣を肩に担いで言った。
「間違いねぇ」
一歩、近づく。
「お前の剣は、
祈りみてぇに真っ直ぐだ」
トヨフサ
「祈り?」
ロイ
「雑念がねぇ。
だから速ぇ」
一拍置いて、続ける。
「だが、
まだ“生き残る剣”じゃねぇ」
トヨフサは、
即座に頭を下げた。
「教えろ」
短く、重い言葉。
ロイは、
その姿を見て――
確信した。
(……こいつは)
(俺が取り戻すまでの間、
前に立てる)
ロイ
「いいだろ」
剣を地面に突き立てる。
「次は、
殺し合い前提の稽古だ」
トヨフサは、
目を輝かせて笑った。
「上等!」
森に、
二人の笑い声が響いた。




