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◆ 閑話 ──奪われた三つの核

夜。


焚き火が、小さく爆ぜる。


ロイは、剣を地面に立てたまま、

その前に腰を下ろしていた。


(……整理するか)


祝福の塔で何が起きたのか。

何を失い、

何が残っているのか。


感覚は、嘘をつかない。



まず一つ目。


ロイは、剣を抜いた。


構え。

呼吸。

踏み込み。


――剣は、振れる。


技も出る。

型も覚えている。


だが。


(……浅い)


刃が、届いていない。


以前なら、

“振る前に勝負が終わっていた”。


技を選ぶ必要もなく、

最短距離で、最短の一手。


今は違う。


考えなければならない。

間合いを測らなければならない。


ロイは、確信した。


「……剣技だな」


一つ目に奪われたのは、剣の“完成度”。


技量そのものではない。

だが、


・最適解を一瞬で引き当てる感覚

・無意識で“勝ち筋”をなぞる精度

・剣が“勝手に当たる”領域


それらが、ごっそり削られている。


体感で――

六割。


剣の眷属。


あれは、

ロイの“戦闘そのもの”を吸っている。



二つ目。


ロイは、目を閉じた。


意識を、外へ。


――何も、起きない。


以前なら。


目を閉じた瞬間、

森全体が“静まり返った”。


魔物は伏せ、

風は遠慮し、

空気が、ロイを避けていた。


今は。


遠くで、獣が鳴いている。

魔物が、普通に息をしている。


ロイは苦笑した。


「……威圧、か」


存在そのものの圧。


立っているだけで敵を折る力。

視線だけで戦意を奪う力。


“灰王”と呼ばれていた理由の一つ。


それが、薄い。


完全に消えたわけじゃない。

だが――


強者が、怯えない。


雑魚が、逃げない。


「……舐められるわけだ」


これも、

六割。


獣の眷属。


あれは、

ロイの“王としての圧”を喰っている。



そして三つ目。


これが、一番厄介だった。


ロイは、焚き火に手をかざす。


熱い。


――普通に、熱い。


祝福の塔以前なら、

祝福由来の力は、

ロイにとって“滑る”ものだった。


触れても、

当たっても、

深く食い込まない。


拒絶でもなく、

防御でもなく、


“通らない”。


だが今は。


祝福の気配が、

はっきりと身体に残る。


(……通ってる)


祝福の魔法。

祝福の武器。

祝福の領域。


以前ほど、無視できない。


「……抵抗力、だな」


祝福への耐性。


いや、正確には――

祝福への“拒否権”。


それが、削られている。


これも、

六割。


人の眷属。


あれは、

ロイの“世界への反抗権”を吸っている。



ロイは、三つを並べて考える。


・剣技

・威圧

・祝福への抵抗力


それぞれ、六割。


残っているのは、

四割ずつ。


だが――

致命的なのは、そこじゃない。


「……バラされてる」


以前のロイは、

三つが“同時に”噛み合っていた。


剣技 × 威圧 × 祝福無効。


だから、

一手で終わった。


今は違う。


どれも使える。

だが、繋がらない。


眷属たちは、

それぞれがロイの力を吸って、

その特化形になっている。


剣の眷属は、

ロイ以上に“剣が上手い”。


獣の眷属は、

ロイ以上に“恐れられる”。


人の眷属は、

ロイ以上に“祝福に適応する”。


ロイは、ゆっくりと立ち上がった。


「……なるほどな」


一つずつ倒せば、

一つずつ戻る。


だが逆に言えば――


「全部揃うまで、

 俺は“最強”じゃねぇ」


焚き火を踏み消し、

夜の森を見る。


「上等だ」


剣を担ぐ。


「ギリギリの戦いで、

 一個ずつ取り返す」


灰王ロイ。

現在戦力――約四割。


だが、

敵ははっきりした。


次章――

封印解放編、開幕。

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