◆ 閑話 ──奪われた三つの核
夜。
焚き火が、小さく爆ぜる。
ロイは、剣を地面に立てたまま、
その前に腰を下ろしていた。
(……整理するか)
祝福の塔で何が起きたのか。
何を失い、
何が残っているのか。
感覚は、嘘をつかない。
◆
まず一つ目。
ロイは、剣を抜いた。
構え。
呼吸。
踏み込み。
――剣は、振れる。
技も出る。
型も覚えている。
だが。
(……浅い)
刃が、届いていない。
以前なら、
“振る前に勝負が終わっていた”。
技を選ぶ必要もなく、
最短距離で、最短の一手。
今は違う。
考えなければならない。
間合いを測らなければならない。
ロイは、確信した。
「……剣技だな」
一つ目に奪われたのは、剣の“完成度”。
技量そのものではない。
だが、
・最適解を一瞬で引き当てる感覚
・無意識で“勝ち筋”をなぞる精度
・剣が“勝手に当たる”領域
それらが、ごっそり削られている。
体感で――
六割。
剣の眷属。
あれは、
ロイの“戦闘そのもの”を吸っている。
◆
二つ目。
ロイは、目を閉じた。
意識を、外へ。
――何も、起きない。
以前なら。
目を閉じた瞬間、
森全体が“静まり返った”。
魔物は伏せ、
風は遠慮し、
空気が、ロイを避けていた。
今は。
遠くで、獣が鳴いている。
魔物が、普通に息をしている。
ロイは苦笑した。
「……威圧、か」
存在そのものの圧。
立っているだけで敵を折る力。
視線だけで戦意を奪う力。
“灰王”と呼ばれていた理由の一つ。
それが、薄い。
完全に消えたわけじゃない。
だが――
強者が、怯えない。
雑魚が、逃げない。
「……舐められるわけだ」
これも、
六割。
獣の眷属。
あれは、
ロイの“王としての圧”を喰っている。
◆
そして三つ目。
これが、一番厄介だった。
ロイは、焚き火に手をかざす。
熱い。
――普通に、熱い。
祝福の塔以前なら、
祝福由来の力は、
ロイにとって“滑る”ものだった。
触れても、
当たっても、
深く食い込まない。
拒絶でもなく、
防御でもなく、
“通らない”。
だが今は。
祝福の気配が、
はっきりと身体に残る。
(……通ってる)
祝福の魔法。
祝福の武器。
祝福の領域。
以前ほど、無視できない。
「……抵抗力、だな」
祝福への耐性。
いや、正確には――
祝福への“拒否権”。
それが、削られている。
これも、
六割。
人の眷属。
あれは、
ロイの“世界への反抗権”を吸っている。
◆
ロイは、三つを並べて考える。
・剣技
・威圧
・祝福への抵抗力
それぞれ、六割。
残っているのは、
四割ずつ。
だが――
致命的なのは、そこじゃない。
「……バラされてる」
以前のロイは、
三つが“同時に”噛み合っていた。
剣技 × 威圧 × 祝福無効。
だから、
一手で終わった。
今は違う。
どれも使える。
だが、繋がらない。
眷属たちは、
それぞれがロイの力を吸って、
その特化形になっている。
剣の眷属は、
ロイ以上に“剣が上手い”。
獣の眷属は、
ロイ以上に“恐れられる”。
人の眷属は、
ロイ以上に“祝福に適応する”。
ロイは、ゆっくりと立ち上がった。
「……なるほどな」
一つずつ倒せば、
一つずつ戻る。
だが逆に言えば――
「全部揃うまで、
俺は“最強”じゃねぇ」
焚き火を踏み消し、
夜の森を見る。
「上等だ」
剣を担ぐ。
「ギリギリの戦いで、
一個ずつ取り返す」
灰王ロイ。
現在戦力――約四割。
だが、
敵ははっきりした。
次章――
封印解放編、開幕。




