◆ 閑話 ──灰王、弱体化を知る
森の中。
焚き火の前で、
ロイは黙って剣を振っていた。
――素振り。
ただの、基礎動作。
灰剣を横に振る。
空を切る。
……軽い。
軽すぎる。
ロイは眉をひそめ、
もう一度、踏み込んだ。
ドン。
地面に、ほとんど衝撃が残らない。
以前なら、
木が揺れ、
地面が割れ、
風圧で枝が折れていたはずだった。
ロイ
「…………」
もう一度。
力を込める。
筋肉を意識し、
腰を入れ、
全力で――
カン。
剣が、ただ鳴っただけだった。
ロイは剣を下ろし、
自分の手を見る。
(……マジか)
◆
以前なら。
魔物の一体や二体、
視線だけで怯ませられた。
呪いの圧。
存在そのものの威圧。
だが今――
少し離れた茂みから、
小型の魔物がこちらを窺っている。
ロイ
「……来いよ」
睨む。
だが、
魔物は逃げない。
一瞬、間を置いて――
普通に、威嚇してきた。
ロイ
「……あ?」
ガルルル、と唸り声。
ロイは、乾いた笑いを漏らした。
「……舐められてんな、俺」
以前なら、
存在を感じ取った瞬間に
逃げ散っていた相手だ。
ロイは剣を構えた。
慎重に。
――慎重に、だ。
(……これが)
一歩、踏み込む。
(弱体化、か)
◆
戦闘は短かった。
だが、
無傷ではなかった。
ロイの腕に、
薄く赤い線が走っている。
切り傷。
ロイは、血を指で拭い、
じっと見つめた。
「……久しぶりだな」
痛み。
確かな、現実。
灰王だった頃のロイは、
傷つくという感覚そのものを
忘れかけていた。
ロイは焚き火の前に座り込み、
深く息を吐く。
「……三つ、か」
奪われた力。
三つの眷属。
どれも戻ってきていない。
(全力の三割も……出てねぇな)
いや、
二割も怪しい。
それでも――
ロイは、笑った。
「……悪くねぇ」
剣を膝に置く。
「ギリギリで戦うのは……
嫌いじゃない」
焚き火が、ぱち、と弾ける。
かつて最強だった男は、
今や――
“負ける可能性”を取り戻した。
それは恐怖であり、
同時に――
次の物語の、始まりだった。
ロイは立ち上がる。
「さて……
まずは一つ目だな」
夜の森へ、歩き出す。
灰王ロイ。
弱体化状態。
だが、
心までは――
一切、削がれていなかった。




