◆ 第161話 ──祝福、暴走。盾が穿つ
Ωは、ゆっくりと立ち上がった。
装甲の亀裂から、
白い祝福光が漏れるのではなく、
噴き出している。
祝福炉心が、悲鳴のように脈打つ。
Ω
「……理解した。」
ロイは灰剣を構えたまま、目を細める。
「何をだ。」
Ωは、自分の胸に手を当てた。
「“時間”は、君に通じない。
ならば──」
祝福光が、Ωの身体を包み込む。
塔の壁が、溶ける。
床が、祝福に侵食される。
Ω
「時間制御を、切り捨てる。」
アークが叫ぶ。
「なっ……!
祝福の制御値が……限界を超えて……!」
バルドル
「バカな……
祝福は“制御して使うもの”だぞ!!」
Ωの声は、もはや一人のものではなかった。
「制御は不要だ。
祝福は“正しさ”そのもの。
暴走ではない──純化だ。」
次の瞬間。
Ωの身体が、
“祝福そのもの”に近づいていく。
剣でもなく、
拳でもなく、
触れた空間そのものが、裁断される。
リリィ
「近づけない……!
祝福が……“拒絶”してきます……!」
ガブリエラ
「ロイさんでも……
あの密度は……!!」
ロイは歯を噛みしめた。
(クソ……
これは……真正面じゃ……)
Ωは一歩、踏み出す。
それだけで、
ロイの足元が砕けた。
Ω
「灰王。
これが祝福の“あるべき姿”。
個体を超えた、正義の圧力だ。」
ロイ
「……なるほどな。」
そのとき。
一歩、前に出た者がいた。
アークだった。
バルドル
「アーク!?
無茶だ、戻れ!!」
アークは震える槍を握りしめ、
それでも前を向いた。
「……同じ祝福なら。」
Ωの視線が、初めてアークに向く。
「……祝福騎士。
君は“弱い”。」
アークは、はっきりと言った。
「……はい。
僕は弱いです。」
その言葉に、ロイが一瞬だけ目を見開く。
アーク
「でも……
同じ祝福を持つからこそ、分かることがある。」
アークの祝福が、静かに共鳴を始める。
暴走しているΩの祝福と、
“違和感”がぶつかり合う。
アーク
「あなたの祝福……
“重すぎる”。」
Ω
「……何?」
アーク
「守るための祝福なのに……
誰のためか、分からなくなってる……!」
Ωの祝福が、一瞬だけ――揺れた。
ロイ
「……!」
バルドル
「まさか……
祝福同士で……干渉してる……!?」
アークは歯を食いしばり、踏み込む。
「ロイさんは……
世界の外から戦ってる!」
槍を構え、
一直線に突く。
「なら僕は……
祝福の内側から戦う!!」
Ω
「戯言だ!!」
祝福の圧力が、アークを押し潰そうとする。
だが──
アークの槍が、
Ωの祝福密度の“綻び”を突いた。
ズンッ!!
音は鈍かった。
だが確かに、
Ωの胸部が――凹んだ。
Ω
「……ッ!!?」
祝福が、乱れる。
暴走していた光が、
一瞬だけ“呼吸”を失った。
ロイは、その一瞬を見逃さなかった。
「……ナイスだ、“盾”。」
灰剣を、低く構える。
アークは、膝をつきながら叫ぶ。
「今です……!!
ロイさん……!!」
Ωは初めて、
明確な“隙”を晒していた。
祝福が暴走したがゆえに、
祝福の騎士にしか見えない綻び。
ロイの口角が上がる。
「……あぁ。
最高の一撃だ。」
灰が、爆ぜる。
戦いは、決定的な局面へ突入した。




