◆ 第159話 ──止まった時間の、綻び
祝福の塔が、再び白く染まった。
Ωの背後で、
祝福の紋様が“時計の歯車”のように回転する。
「再展開する。」
Ωの声と同時に――
世界が、また止まった。
音が消える。
灰が宙で凍る。
アークの叫びは、口の中で固定される。
完全な沈黙。
だが今回は――
ロイは、眉をひそめた。
「……二回目だな。」
足元の灰が、
わずかに“落ちた”。
Ωの動きが止まる。
「……?」
ロイは、ゆっくりと拳を握った。
(前より……
“重くない”……?)
前回の時間停止では、
世界そのものが“鉛”のように重かった。
だが今は違う。
止まってはいる。
確かに止まっている。
それでも――
完全には固定されていない。
ロイは、一歩、踏み出した。
ギ……ッ
床が、軋んだ。
Ωの目が、はっきりと見開かれる。
「……動いた?」
ロイ自身も驚いていた。
「……へぇ。」
足が、動く。
腕が、動く。
思考だけじゃない。
身体が、時間停止に抵抗している。
Ωはすぐに距離を取る。
「あり得ない。
祝福時間支配は
“存在を時間軸から切り離す”権能だ。」
ロイは首を回しながら言った。
「じゃあさ。」
一歩、また一歩。
「俺は……
最初から時間軸に乗ってねぇんじゃね?」
Ωの祝福が、わずかに乱れる。
「……呪い……
いや、違う……」
ロイは、灰剣を持ち上げた。
時間が止まっているにも関わらず、
剣から灰が零れ落ちる。
「お前さ。」
ロイは、真っ直ぐΩを見る。
「世界を止めるのは得意でも、
“世界から弾かれてる奴”の扱いは
慣れてねぇだろ。」
Ωは初めて、
明確な“警戒”を浮かべた。
「……学習する。」
祝福の歯車が高速回転を始める。
「時間拘束、再定義。
対象:灰王ロイ。
祝福優先度を――」
その瞬間。
ロイが、消えた。
時間停止の中で。
Ω
「――ッ!?」
背後。
ロイは、そこに立っていた。
「残念。」
灰剣が、Ωの首元に触れる。
触れただけ。
だがΩの装甲に、
細い亀裂が走った。
ピキ……ッ
Ωはすぐに跳び退く。
「……理解した。」
時間が、動き出す。
轟音。
風。
仲間たちの呼吸。
アーク
「ロイさん!?
今……どこに……!」
リリィ
「Ωの装甲が……割れて……?」
バルドルは、確信した声で言った。
「……ロイ。
お前……時間停止の“内側”に
入り始めてるぞ……。」
ロイは、肩を鳴らす。
「さすがにキツいな。
全身が軋む。」
Ωは装甲の亀裂を見つめ、
静かに告げた。
「灰王ロイ。
君は──」
一拍置いて。
「時間停止に“耐性”を獲得し始めている。」
ロイはニヤッと笑った。
「だったら次は――
止められる前に、踏み込む。」
Ωの祝福が、さらに濃くなる。
「ならば、次は
“時間停止の完成形”を見せよう。」
白光が、塔を包み込む。
時間を巡る戦いは、
次の段階へ進む。




