◆ 第156話 ──灰反転《Re:Ash》、速度解放
ロイは崩れた壁の瓦礫を踏みしめながら立ち上がり、
灰剣を肩に担いだ。
Ωは微動だにせず、
ただ静かに告げる。
「灰王。
君は充分に強い。
だが──速度では、私に届かない。」
ロイは口の端をゆっくり上げた。
「そりゃ……どうかな?」
アークが息を呑む。
「ロイさん……何か来る……!」
バルドルは直感で身構えた。
「……ッ!?
空気が……重くなっていく……!」
リリィも震える声で言う。
「呪いの……濃度が……上がってる……!」
ガブリエラは祈りの手を震わせながら呟く。
「ロイさん……これ以上は……!」
だが──止まらない。
◆
ロイの呼吸が、
世界の“時間”とズレ始める。
灰が逆巻き、
彼の足元で世界の線が軋んだ。
Ωの眉がわずかに動く。
「……“遅れている”?
いや、違う──“ズレている”?」
ロイは頭を掻きながら言った。
「俺の呪い……
世界から“嫌われてる”らしいんだわ。」
Ω
「……?」
「だからな、
“世界の流れ”と“俺の身体”を同期させない。」
Ωの瞳が鋭く光った。
「……もしや──
“世界速度からの独立”……!」
ロイは笑う。
「そう。
俺は世界の速度に合わせねぇ。
だから、“世界の速さ”じゃ俺を測れない。」
Ω
「速度において、それは──反則……!」
ロイが一歩、前に出た。
灰が爆ぜ、
世界が震えた。
──灰反転
ロイの身体が一瞬で“消えた”。
Ω
「っ……!」
次の瞬間。
Ωの頰に浅い傷がついていた。
リリィ
「当たってる……!
ロイさんの方が……速い……!」
アーク
「本当に……見えなかった……!」
バルドル
「いや……俺にはロイの“残像だけ”が見えた……
あのΩと互角……いや……それ以上……!」
Ωは頬に触れ、
白銀の血液を見つめた。
「……驚いた。
祝福領域に属さない存在が……
私の“速度八段”を上回った……?」
ロイがΩの背後に立つ。
「お前の“段”とやら……
足し算だろ?」
Ω
「……何が言いたい?」
ロイ
「俺の速度は“掛け算”なんだよ。」
Ωの瞳が大きく見開かれた。
「──ッ!!?」
ロイは笑う。
「だから、
“段”なんざ関係ねぇ。」
Ωが一瞬の遅れを取った。
その瞬間──
ロイの灰剣が白光を裂いた。
ギィィンッッ!!!
祝福と呪いが衝突し、
塔の柱が一斉に崩れ落ちる。
リリィ
「ロイさん……!
本気で……“殺し合い”の速度です……!」
アークは震える槍を構えながら言う。
「Ωですら……
ロイさんの動きを追えない……!」
バルドルは歯を食いしばった。
「クソッ……
あいつ、どこまで強くなるんだ……!」
Ωは白い装甲の奥で、
明確に“興味”を宿した瞳でロイを見た。
「……いいだろう。
速度の次元で、君と戦う価値はある。」
ロイ
「そっちこそ。
ようやく“戦える奴”が来たって感じだわ。」
Ω
「では──加速を“極限”へ。」
Ωの身体が淡い白光に包まれる。
「祝福速度──
《神速段・零》」
ロイ
「……は?」
Ωは宣言した。
「段階ではない。
“速度概念からの解放”。
本来、人間にも祝福者にも不可能な境地だ。」
そしてΩは静かに告げる。
「灰王ロイ。
ここからが──本当の速度だ。」
ロイの口角が、地獄のように上がった。
「上等。」
塔が裂け、
世界が軋む。
灰 vs 白。
速度と速度の、純粋なぶつかり合いが始まる。




