◆ 第147話 ──灰王、祝福を斬る
レオンの剣が白い閃光となり、
ロイへ向けて振り下ろされる。
その一撃は、
祝福の騎士の限界を超えた“強制出力”によるもの。
バルドルは息を呑む。
「……あれを正面から受け止める気か!?」
だがロイは涼しい顔で、灰剣をひらりと構えた。
「大丈夫だ。
俺は“こいつ”を斬りたくねぇ。」
レオンの瞳は無機質に発光し続けている。
「祝福の意志……優先。
灰王、排除──」
ロイはその声を遮るように、一歩前へ進んだ。
「黙ってろ。
お前の中にいる“知らねぇ誰か”と話したくねぇ。」
レオンの剣がロイの首を狙い、横薙ぎに走る。
刹那。
灰が、“帯”のようにロイの周囲を漂った。
リリィが息を呑む。
「……世界が……揺れてる……?」
ガブリエラも祈りの手を震わせる。
「ロイさん……何を……?」
◆
レオンの剣がロイの胸に届く寸前――
ロイの灰剣が、軽く触れた。
ただそれだけだった。
だが次の瞬間、
レオンの身体から“白い光”が吹き飛んだ。
「っ……あ……が……ッ!??」
全員が目を見開く。
アークが叫ぶ。
「れ、レオン!!?」
レオンの身体は傷一つ負っていない。
だが、その周囲を覆っていた祝福の光が、
まるで“皮膜”のように剝がされ、空へ飛び散っていく。
バルドルが驚愕の声をあげた。
「バカな……!
祝福そのものを……切り離しただと!?」
ロイは軽く肩を回した。
「別に難しいことじゃねぇよ。
“祝福の力”と“本人の身体”の境界を見つけて……
そこだけ斬る。」
アークは震える声を漏らした。
「ロイさん……そんな芸当……
人間にできるはずが……!」
ロイは灰剣を見つめ、ぼそりと言う。
「多分……“呪装適応”の副作用だ。
呪いのせいで、世界のほころびが全部“視える”んだよ。」
呪い。
マイナス。
世界の裏側。
それらがロイに“理解不能の視界”を与えている。
普通の人間では到底できない芸当。
祝福を――
その根元ごと切り裂くなど。
◆
白い光の膜が完全に剥がれ落ちたとき、
レオンの瞳に宿っていた無機質な光が消えた。
そして、
ゆっくりと、彼自身の色が戻っていく。
「……アーク……?」
アークの目から涙がこぼれる。
「レオン……!!
本当に……戻ったの……!?」
レオンは膝をつき、苦しげに息を整えながら、
震える声で呟いた。
「僕は……ずっと……
議会に……操られていた……
“灰王は悪”だと……何度も……刷り込まれて……」
アークはレオンの肩を抱いた。
「レオンは悪くない!!
君は……ずっと優しかった……!」
レオンの目には、涙がにじんでいた。
「アーク……君は……強くなったんだな……」
ロイはそこでようやく口を開く。
「よし。“感動の再会”は終わりだ。」
レオンは涙を拭いながら、ロイを見た。
「……君が、僕を救ったのか?」
ロイは頭をかいた。
「いや、別に。
アークの泣き顔がウザいからだ。」
アークが真っ赤になる。
「ロイさん!!」
バルドルがふっと笑う。
「そういうところだぞ、ロイ。」
リリィは胸に手を当て、涙混じりに微笑む。
「ロイさん……優しすぎます。」
ロイはそっぽを向いた。
「勝手に言え。」
◆
そのとき――
戦場を覆う空が震えた。
議会軍の後方から、
巨大な魔法陣が複数展開される。
バルドルの顔が青ざめた。
「まずい……!
“祝福炉心兵”を出す気か……!?」
レオンも振り返り、顔を歪める。
「議会の……最大戦力……
僕たち“騎士”を素材として作られる……!」
アークが息を呑む。
「騎士を……素材……?」
ロイは灰剣を肩に担いだ。
「……はぁ。
やっと本番かよ。」
灰王の目が細く光る。
「来いよ。
“祝福の怪物”ども。」
灰が戦場に渦巻き始める。
次章、
灰王 vs 議会の禁断兵器へ。




