『二つの祈り ― 救いと自由 ―』 ◆
夜空に黒い光輪が渦巻く。
ガブリエラの涙が光となって宙に散る。
「お願い……アーク……
一緒に帰ろう……!
もう苦しまなくていいんだよ……!」
声は震え、
その震えが苦しさに変わっていた。
アークは胸を抑え、
槍を握る手が汗で滑りそうになる。
(そんな言い方……
そんな優しさ……
僕が一番弱いところを突いてくるなんて……)
ロイが静かに呟く。
「無理に戦う必要はねぇぞ。」
アークは首を横に振った。
「僕が……決めなきゃいけない。」
◆
ガブリエラが進み出る。
「私は……アークを守るために、
力を与えられたの。
だから――アークを奪う灰王を殺すのが、正義!!」
彼女の光輪が禍々しい黒を帯びる。
バルドルが息を呑む。
「祝福の力が……穢れている……!
議会め……彼女を利用したのか!」
リリィは涙を堪えきれず叫ぶ。
「違うよ……それは救いなんかじゃない!!」
しかしガブリエラの耳には届かない。
「アークを救うためなら……
私は世界を壊してもいい!!!」
アークの鼓動が跳ね上がる。
(僕を……救うために……?)
◆
ガブリエラの足元に魔方陣が展開する。
「聖光断罪!!」
黒い光が収束し、
ロイへと向かって解き放たれる。
アークは即座に走り出した。
リリィ「アークさん!!」
ロイを守るように前へ飛び出し――
槍を振り抜いた。
ガギィィィン!!
光が弾けて霧散した。
ガブリエラの瞳が震える。
「……どうして……
どうしてロイを庇うの……!!!?」
アークは深く息を吸い、
覚悟の声を放つ。
「君の正義は……“祈り”だったはずだ!!
誰かを殺すための力じゃない!!」
「違う!!
アークが間違ってるんだよ!!
私は信じてる!!
“救い”を!!!!」
アークは叫ぶ。
「救いは誰かの犠牲の上に立っちゃいけない!!!
それは……正義じゃない!!!」
ガブリエラの肩が震える。
◆
焚き火の夜。
笑っていた頃。
アークをずっと支えてくれた少女。
アークは一歩――近づく。
「ガブリエラ……
君の祈りは、本当は優しいはずなんだ。
僕はそれを知ってる。」
ガブリエラが顔を上げる。
涙の中で揺れる瞳。
アークは、これまで言えなかった言葉を告げる。
「……ありがとう。
僕を支えてくれて。」
ガブリエラの残酷だった光輪が止まり、
叫びが震えに変わる。
「私は……っ
あなたを……守りたかった……!
ただ、それだけなのに……!」
アークは静かに槍を下ろす。
「それで十分だよ。
それが君の“祈り”なんだ。」
ガブリエラの魔法陣が消え、
両拳が胸の前で握り締められる。
「アーク……
私は……どうすればいいの……?」
アークは手を伸ばす。
「僕と一緒に……迷ってほしい。」
ガブリエラは、その言葉に息を呑む。
「迷う……?」
アークは頷いた。
「迷って、悩んで……
それでも誰かを守りたいって思うなら、
それが君の正義だ。」
ガブリエラは膝から崩れ落ち、
泣きながら手を伸ばした。
アークは彼女の手を強く握る。
ガブリエラの黒い光輪が――
一枚、砕け散った。
◆
ロイが横目でアークを見て、
小さく笑った。
「よくやったじゃねぇか、盾。」
バルドルが重くうなずく。
「正義とは……
誰かを救いたいという軌跡。
それを思い出させたのか。」
リリィは微笑んだ。
「アークさん……
あなたの正義は、優しいです。」
アークはガブリエラを支えながら、
深呼吸をした。
(僕はようやく……
一歩を踏み出せた気がする……)
でも同時に分かった。
自由は、迷うことだ。
救いは、苦しむことだ。
ロイが言った「人間」は、
そういうものなのだと。
◆
だが、静寂を裂く声。
遠くの森から、重厚な行軍音。
「アーク!!後ろ!!」
バルドルの叫び。
無数の旗が揺れ、
黒鉄の影が迫る。
反逆審問官の本隊。
議会が本気を出した証。
アークは奥歯を噛み締めた。
(これは……終わりじゃない。
始まりだ……!)
槍を構えなおし、
強く宣言する。
「僕が盾となる!
誰も……絶対に死なせない!!」
ロイが剣を握り、
微笑んだ。
「俺が斬り開く。
前へ進む道はな。」
リリィが祈り、
バルドルが光を宿し、
ガブリエラが震える瞳を上げる。
灰王連合――5人。
対するは議会という世界。
闘いは、さらに激しくなる。




