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『二つの祈り ― 救いと自由 ―』 ◆

夜空に黒い光輪が渦巻く。

ガブリエラの涙が光となって宙に散る。


「お願い……アーク……

一緒に帰ろう……!

もう苦しまなくていいんだよ……!」


声は震え、

その震えが苦しさに変わっていた。


アークは胸を抑え、

槍を握る手が汗で滑りそうになる。


(そんな言い方……

そんな優しさ……

僕が一番弱いところを突いてくるなんて……)


ロイが静かに呟く。


「無理に戦う必要はねぇぞ。」


アークは首を横に振った。


「僕が……決めなきゃいけない。」



ガブリエラが進み出る。


「私は……アークを守るために、

力を与えられたの。

だから――アークを奪う灰王を殺すのが、正義!!」


彼女の光輪が禍々しい黒を帯びる。


バルドルが息を呑む。


「祝福の力が……穢れている……!

議会め……彼女を利用したのか!」


リリィは涙を堪えきれず叫ぶ。


「違うよ……それは救いなんかじゃない!!」


しかしガブリエラの耳には届かない。


「アークを救うためなら……

私は世界を壊してもいい!!!」


アークの鼓動が跳ね上がる。


(僕を……救うために……?)



ガブリエラの足元に魔方陣が展開する。


聖光断罪ホーリー・ジャッジメント!!」


黒い光が収束し、

ロイへと向かって解き放たれる。


アークは即座に走り出した。


リリィ「アークさん!!」


ロイを守るように前へ飛び出し――


槍を振り抜いた。


ガギィィィン!!


光が弾けて霧散した。


ガブリエラの瞳が震える。


「……どうして……

どうしてロイを庇うの……!!!?」


アークは深く息を吸い、

覚悟の声を放つ。


「君の正義は……“祈り”だったはずだ!!

誰かを殺すための力じゃない!!」


「違う!!

アークが間違ってるんだよ!!

私は信じてる!!

“救い”を!!!!」


アークは叫ぶ。


「救いは誰かの犠牲の上に立っちゃいけない!!!

それは……正義じゃない!!!」


ガブリエラの肩が震える。



焚き火の夜。

笑っていた頃。

アークをずっと支えてくれた少女。


アークは一歩――近づく。


「ガブリエラ……

君の祈りは、本当は優しいはずなんだ。

僕はそれを知ってる。」


ガブリエラが顔を上げる。


涙の中で揺れる瞳。


アークは、これまで言えなかった言葉を告げる。


「……ありがとう。

僕を支えてくれて。」


ガブリエラの残酷だった光輪が止まり、

叫びが震えに変わる。


「私は……っ

あなたを……守りたかった……!

ただ、それだけなのに……!」


アークは静かに槍を下ろす。


「それで十分だよ。

それが君の“祈り”なんだ。」


ガブリエラの魔法陣が消え、

両拳が胸の前で握り締められる。


「アーク……

私は……どうすればいいの……?」


アークは手を伸ばす。


「僕と一緒に……迷ってほしい。」


ガブリエラは、その言葉に息を呑む。


「迷う……?」


アークは頷いた。


「迷って、悩んで……

それでも誰かを守りたいって思うなら、

それが君の正義だ。」


ガブリエラは膝から崩れ落ち、

泣きながら手を伸ばした。


アークは彼女の手を強く握る。


ガブリエラの黒い光輪が――

一枚、砕け散った。



ロイが横目でアークを見て、

小さく笑った。


「よくやったじゃねぇか、盾。」


バルドルが重くうなずく。


「正義とは……

誰かを救いたいという軌跡。

それを思い出させたのか。」


リリィは微笑んだ。


「アークさん……

あなたの正義は、優しいです。」


アークはガブリエラを支えながら、

深呼吸をした。


(僕はようやく……

一歩を踏み出せた気がする……)


でも同時に分かった。


自由は、迷うことだ。

救いは、苦しむことだ。


ロイが言った「人間」は、

そういうものなのだと。



だが、静寂を裂く声。


遠くの森から、重厚な行軍音。


「アーク!!後ろ!!」


バルドルの叫び。


無数の旗が揺れ、

黒鉄の影が迫る。


反逆審問官の本隊。

議会が本気を出した証。


アークは奥歯を噛み締めた。


(これは……終わりじゃない。

始まりだ……!)


槍を構えなおし、

強く宣言する。


「僕が盾となる!

誰も……絶対に死なせない!!」


ロイが剣を握り、

微笑んだ。


「俺が斬り開く。

前へ進む道はな。」


リリィが祈り、

バルドルが光を宿し、

ガブリエラが震える瞳を上げる。


灰王連合――5人。

対するは議会という世界。


闘いは、さらに激しくなる。

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