『盾が示す正義』 ◆
灰と光のぶつかり合う轟音が、
朽ちた神殿を揺らし続ける。
ロイとバルドル。
どちらも退かず、一歩も譲らない。
アークはその戦いを見つめながら――
胸が張り裂けそうになっていた。
(刃を交わすほどに、
お互いが“誰かを守りたい”気持ちが伝わってくる……)
どちらも正しい。
誰も間違っていない。
なのに――刃を向け合わなければならない。
それが、正義の悲しさだった。
◆
バルドルが光刃を高く掲げ、
ロイに迫る。
「ロイ・アーデン!
貴様は世界を混乱させた元凶だ!!
この剣が貴様を断罪する!!」
ロイは灰の剣で受け止め、
不敵に笑う。
「世界が勝手に転びそうになってただけだ!
俺はただ……その手を離しただけだ!」
(ロイさん……!)
アークの胸が締め付けられる。
ロイを悪と呼ぶには、
あまりにも……人間すぎた。
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バルドルがさらに声を荒げる。
「お前は人々を導く力があるのに……
なぜ救わない!!」
ロイは即答した。
「頼ってくるやつしか救いたくねぇからだ。」
バルドル「なんだと……!」
ロイ「“救われる覚悟もない奴”を救ったって、
いずれまた神を求めるだけだ。」
アークは息を呑む。
バルドルが震えながら吠える。
「救いとは、弱者のためにある!!
強者が示すべき道だッ!!」
ロイの叫びがそれを遮った。
「勝手に決めんな!!
人間はみんな……弱ぇんだよ!!」
鉄と光が衝突し、
火花が爆ぜる。
◆
アークの脳裏に、
灰王と出会ってからの出来事が浮かぶ。
・ロイは、誰かを支配しない
・導かず、選ばせる
・強くても、背中を預けさせてくれる
胸が、答えを訴えていた。
(ロイさんは……
“力で導く王”を否定しているんだ……!
人々が自分で歩く世界を目指している!)
なら、自分は――
アークは叫びながら踏み込む。
「やめてください!!
その戦い……意味がありません!!」
ロイとバルドルが、同時にアークを見た。
アークは二人の間に割って入り、
槍を地に突き立てた。
「正義は……
押しつけるものじゃない!!
誰かを守りたい気持ちが……
最初の一歩なんだ!!」
バルドルが震える声。
「守りたい……気持ち……?」
アークはロイの方を見た。
「ロイさんは……
“自由に生きろ”って言った!
だから僕はロイさんの自由を守る!
それが僕の正義です!!!」
ロイは口角を上げた。
「言うじゃねぇか、“盾”。」
アークはバルドルを見据え直す。
「バルドル隊長!
あなたは、何のために戦っているんですか!!」
その問いは――
バルドルの核心を突いた。
◆
バルドルの呼吸が乱れ、
刃先が震える。
「俺は……秩序を、救いを……
望む者に与えるために……!」
アークはさらに踏み込む。
「では、救いを望んだ“願い”を
その人の口から聞きましたか!!?」
バルドルの目が揺らぐ。
「あなたは……
ただ“救いが必要だ”と決めつけているだけだ!!
それは優しさじゃない!
支配です!!」
バルドルの脚が止まる。
剣が、わずかに下を向いた。
アークの声が静かに響く。
「ロイさんは……
本当に助けを求めた人しか、手を差し伸べない。
それは冷たさじゃない。
“尊厳”です。」
バルドルの両眼に、
涙が浮かんだ。
「俺は……間違っていたのか……?」
ロイは肩をすくめた。
「間違ってたっていいじゃねぇか。
人間なんだから。」
リリィがそっと呟く。
「……迷って、気づいて。
それもまた……正義です。」
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バルドルは剣を地面に突き立て、
深く、深く頭を下げた。
「……ロイ・アーデン。
アーク・ヴァルディス。
俺は……今ここに誓う。」
その声は震えていて、
でも、確かに強かった。
「二人が目指す自由――この身で守ろう。」
アークが瞠目する。
ロイも少し驚きつつ――
「いい判断だ、“正義”。」
バルドルは顔を上げ、
静かに微笑んだ。
「光は……独りでは輝けない。
闇があるからこそ……生まれるものもある。」
その言葉に、
アークの胸が熱くなる。
◆
こうして――
聖騎士バルドルが、“灰王連合”に加わった。
光と灰と、迷える正義が出会い、
真の自由へと一歩踏み出した。




