大呪核へ、決別の旅路
アーク・カースの導きにより、ロイ、リリィ、そして元聖女ルミアは、王都を発って南方の《封絶の地・エントラ》へ向かっていた。
そこには、“世界の根”に繋がる唯一の道、《奈落の門》があるという。
旅は険しく、祝福の消えた大地には混沌と呪いが漂っていた。
各地で“祝福難民”が暴れ、魔獣が理性を失い、呪われし装備が自我を持ち始める。
それでもロイは前を見据えて歩き続ける。
「この世界の歪みの根っこに辿り着いて、壊す。……それが、俺の答えだ」
だが、その横を歩くリリィの表情は、どこか暗い影を落としていた。
道中、ロイたちは《灰の集落》と呼ばれる村に立ち寄る。
そこは、かつて呪いを理由に迫害された者たちが逃げ込んだ村で、
今では“呪装適応者”の隠れ里とも呼ばれていた。
村の長老、かつてアークと共に世界の秘密を探ったという女性は言う。
「“大呪核”に触れた者の中で、生きて戻った者はいない。
それは呪いというより、“記憶”の塊なのよ。
世界そのものの“罪と願い”が、そこに封じられている」
ロイは迷わず言う。
「それでも行く。逃げたままじゃ、誰も救えねぇ」
その夜。
リリィが一人、村外れの崖に立っていた。
「……お兄ちゃんは、変わった。強くなった。だけど、同時に“遠く”なった気がする……」
呪装適応の副作用か、リリィの体には黒い紋様が浮かびはじめていた。
それは、呪いが彼女の肉体ではなく“魂”に適応し始めている証――
彼女の中で、静かに何かが目を覚まそうとしていた。
翌日、村を発つロイたち。
その道中、突如として地鳴りが起こる。
地中から現れたのは、異形の聖騎士たち。
「……祝福は滅びぬ。我ら、白き虚神に選ばれし者」
彼らの装備は、かつての聖騎士団の“残骸”に呪いを融合させた異形の装備だった。
《白き虚神教》が送り込んだ、“再祝福兵”。
ロイは呪装を展開し、立ちはだかる。
「もう一度言う。祝福も神も、終わった。
それでも立ち塞がるってんなら――呪いごと、叩き潰す!」
激しい戦闘の中、リリィが突如として倒れ込む。
「う、うう……頭が……燃えるみたい……っ!」
ロイが駆け寄ろうとしたその時、リリィの身体から禍々しい光が噴き出した。
《呪適合超過》
《発動:カースリンク・アノマリー》
《第二人格:リリィ=λ(ラムダ)出現》
「……邪魔をするな、ロイ。リリィは今、夢を見ている。
“世界が祝福だけで満ちた、優しい夢”を」
ロイの目が見開かれる。
「お前……リリィじゃねぇ……!」
“彼女”は微笑んだ。
「私の名はラムダ。呪いの深層に触れた《適応体》の影。
あなたが《大呪核》に近づくほど、リリィはもう戻れなくなる」
ラムダは、ロイの胸元にそっと手を当てた。
「それでも行くの? 世界を壊して、彼女を失ってまで?」
沈黙が流れる。
やがてロイは、苦しげに、だが決然と答えた。
「世界の呪いを壊すために……全部を背負って、行く」
その言葉に、ラムダはほんのわずか、微笑を深めた。
「……なら、見届けるわ。あなたが“選ばれる”価値があるかどうかを」
ラムダの意識が薄れ、リリィの身体がその場に崩れる。
ロイは彼女を抱きかかえながら、心の中で静かに誓った。
「祝福に殺された妹を、呪いが食い潰そうとしてる。
だったら俺が、“呪いそのもの”を殴りにいくまでだ」




