『神座に座る者 ― 白銀の聖騎士バルドル ―』 ◆
灰の森を抜けた先。
朽ちた神殿跡の中央に――
白銀の男が立っていた。
傷だらけの鎧。
折れたはずの誇り。
しかし剣はなお輝き、背筋は真っ直ぐ。
バルドル・ラングレイ
王家直属部隊の元隊長。
かつてロイと死闘を交わした聖騎士。
彼は膝をつき、祈りを捧げていた。
「神なき世界に、まだ光があるのなら――
どうか、我らに“正義”を。」
その祈りは、誰にも届かない。
神は死んだから。
しかし――バルドルは立ち上がった。
「ならば俺が、光となる。」
その眼は、強い信念を宿していた。
◆
ロイ、リリィ、アークが神殿跡へと入る。
ロイはすぐに構えた。
「生きてたかよ、正義野郎。」
バルドルは振り返り、剣を掲げる。
「貴様さえ倒せば、
この世界に再び秩序が戻る!!」
アークは驚愕する。
「あなたが……
あの聖騎士、バルドル……!」
バルドルはアークを見据えた。
「アーク・ヴァルディス。
まさか貴様が――灰王の側に立つとは。」
アークは槍を構えて答える。
「僕はロイさんの自由を守る。
それが、僕の正義です!」
バルドルの剣先が震える。
「正義……互いに違う“正義”を語っているが……
決着はひとつだ。」
正義はひとつでいい――
他はすべて悪だ。
その思想が、絶望を孕んでいるとも知らずに。
◆
ロイが一歩前へ出た。
「お前の正義、俺がぶち壊してやるよ。」
バルドルは剣を構え直す。
「その言葉、そっくり返す!」
一瞬で距離が詰まり――
刹那、火花が散った。
ガァンッ!!!
灰と光がぶつかり合い、
神殿の柱が次々と崩れ落ちる。
バルドルの剣がロイの胸へ迫る。
「英雄殺し……!
迷える人々を導かぬ貴様に、
世界を語る資格はない!!」
ロイは笑って受け流す。
「俺は語らねぇよ。
背中を見せてるだけだ。」
バルドルの目が険しくなる。
「それが最も危険なのだ!!
人は強者の背中に従う!!」
ロイは刃を弾き、言い返す。
「従うなよ。
歩けよ、自分の足で。」
二人の剣戟は、
互いの核心をぶつけ合う言葉そのもの。
◆
アークは震えた。
(これが……
真正面からぶつかり合う……
“正義”の戦い……!)
リリィは拳を握りしめて祈る。
(止めたい……
でも――止められない)
◆
バルドルが叫ぶ。
「正義は秩序だ!
従うべき形だ!!
貴様はその全てを壊したッ!!!」
ロイの声が重く響く。
「壊した?
……違うな。」
灰の力が爆ぜる。
黒月戦を経た力――ロイは一段階、強くなっていた。
「最初から、壊れてたんだよ。
俺はただ……隠されてた現実を見せただけだ。」
バルドルの表情が歪む。
ロイは刃を肩に担ぎ、言い切った。
「英雄も、秩序も、正義も。
誰かが楽するための“言い訳”だ。」
静寂。
その言葉は、
バルドルの心臓を鋭く射抜いた。
「……黙れ。」
バルドルの足元から、白い光柱が立ち昇る。
「正義は……言い訳ではない!!
希望だ!!!」
その声に、
アークの胸がまた揺さぶられる。
(この人も……
救われたいだけなんだ)
◆
ロイはため息をひとつ。
「お前さぁ。
人を導きたいんじゃなくて――
縋りたいだけなんじゃねぇの?」
バルドルの動きが止まった。
図星。
そして、怒り。
「貴様ぁぁぁああああ!!!!」
光が降り注ぎ、
大地を穿つ一撃がロイを襲う。
ロイはギリギリで受け止めた。
「……やれやれ。
器用な聖騎士だよ。
けどな――」
ロイの目が鋭く光る。
「俺に“正しさ”を押し付けようなんて、
十年早ぇよ。」
◆
戦いはさらに激化する。
アークが槍を握りしめる。
(この戦い……
僕が終わらせなきゃいけない。)
それは、
最も残酷で、最も優しい選択。
自分の信じる正義は、
誰のためにあるのか。
アークの答えが、
次の一手になる。




