閑話 ―不老騎士の一日― 『次元をまたぐ剣』 ◆
夜の森。
焚き火の赤い灯りが、
静かに三人を照らしていた。
リリィが眠りにつき、
アークは見張りに出ている。
ロイとエファトだけが、
炎を挟んで向かい合っていた。
ロイが飲みかけの水筒を放り投げる。
「……さっきから思ってたんだけどさ。
お前、強すぎね?」
エファトは受け取りもせず、
水筒が地面に落ちる音すら無視した。
「当然だ。“不老剣”だからな。」
ロイは眉をひそめる。
「不老剣ってなんだよ。
名前だけ聞くとただ長生きな奴じゃん。」
エファトは淡々と告げた。
「事実そうだ。
この数千年、戦い続けてきた。」
「数千……」
ロイは数えてみようとして諦めた。
「そんな昔から戦って何してんだよ。」
エファトは焚き火の火を見つめたまま言う。
「物語の隙間を埋めているんだ。
世界は常に矛盾と危機で満ちている。
その穴を塞ぐのが、俺の役目らしい。」
ロイは鼻で笑った。
「らしいってお前、自覚ないのかよ。」
「依頼人が気まぐれだからな。
別の時空から呼ばれた日もある。」
ロイは息を飲んだ。
「はぁ!?
別の時空って……どこの?」
「さぁな。
呼んだ本人が泣いて頭を下げていたから、
助けはした。」
「で、どうしたんだよその時空。」
エファトは虫でも払うような仕草で言う。
「魔王を斬った。」
淡々。
あまりにも淡々。
ロイは思わず笑った。
「なんなんだよそれ!
とんでもねぇな、マジで前作主人公かよ。」
エファトはわずかに口角を上げた。
「俺は、自分の物語を持たない。
ただ剣を振るうだけだ。」
ロイは焚き火に枝を投げた。
「羨ましいわ。
考えなくていいってことだろ。」
エファトは首を横に振る。
「違う。
考え続けた結果がこれだ。」
ロイは言葉を失う。
エファトはゆっくりと立ち上がり、
遠くを見つめた。
「俺はまた、どこかの時空の穴を塞ぎに行く。」
「……今かよ。」
「ああ。
短く済む。夜明けまでには戻る。」
ロイは呆れたように笑う。
「勝手にしろよ。
死ぬなよ、不老。」
エファトは振り返らずに答える。
「死ねないんだ、俺は。」
灰の風が吹く。
エファトの姿は影に溶け、
次元の境界へと消えた。
ロイは火に手をかざし、
彼の残した言葉を噛み締める。
「……死ねない自由ってのも、
悪くねぇのかもな。」
焚き火の火が揺らぎ、
風に燃えた。
◆
エファトは遠い時空で剣を振るい、
ロイは焚き火の前で自由を願う。
二人の英雄は違う場所にいても、
同じ夜空を見ていた。




