『灰王連合(アッシュ・アライアンス)』 ◆
翌朝。
廃塔の一階、薄光差し込む兵舎跡。
アークは槍を磨きながら、
これからの自分を噛み締めていた。
(もう後戻りはできない……
僕は議会を裏切った。
でも、真実を選んだ。)
リリィが水を運びながら声をかける。
「アークさん、眠れました?」
「少しだけ。でも大丈夫です。」
リリィの影越し、
ロイの姿を探してしまう自分がいる。
すると――
「居たのか、新入り。」
背後から低い声。
アークが振り返ると、
壁にもたれて腕を組む、
一人の青年が立っていた。
黒髪、凛とした目。
風のような静けさ。
――エファト・ストライヴ。
不老剣の使い手。
何千年を生きた最強の剣士。
アークは思わず敬礼した。
「光翼騎士、アーク・ヴァルディスです!」
エファトはジロリと睨む。
「硬すぎる。肩の力を抜け。」
「あっ……すみません。」
リリィが微笑む。
「エファトさん、不器用なんです。」
「黙れ。」
エファトがチラリとアークを見る。
「ロイの盾になる、と言ったそうだな。」
アークは深く頷く。
「はい。
僕はロイさんの自由を守ります。
たとえ世界が敵になっても。」
エファトは無表情のまま、
小さく鼻で笑った。
「……気に入った。」
その一言だけ。
だがそれは――
この男からの最大の承認だった。
アークは胸が熱くなる。
(本当に……ロイさんを選んで良かった……!)
◆
屋上では、ロイが地図を広げていた。
そばには、魔物ですら怯える灰の気配。
アークが近づくと、ロイは言う。
「ここから北に、
迫害から逃れてきた難民が集まってる場所がある。
まずはそこへ向かう。」
アークは頷き、拳を握る。
「僕が先行して状況を確認します。」
ロイは口の端を上げた。
「頼もしいじゃねぇか。」
リリィが明るく言う。
「“灰王連合”ですね!」
アークはその響きに心が躍る。
(ロイさんと共に戦える……
僕は、僕の正義で。)
エファトが言う。
「議会は必ず追ってくる。
奴らには――新しい切り札がある。」
「切り札……?」
エファトの目がわずかに細くなる。
「反逆審問官。
裏切り者を狩るために生まれた存在だ。」
アークの背筋が寒くなる。
「人間を……狩る……?」
エファトは短く言う。
「正義の仮面を被った刃ほど、
危険なものはない。」
ロイは肩をすくめた。
「どんな奴だろうと関係ねぇ。
邪魔するなら、斬る。」
アークは、ロイの強い横顔を見て思った。
(この人は……
本当に自由を信じている。)
◆
そして――塔を出た時。
遠くの空に黒い旗が上がる。
議会の討伐隊が動き出した合図。
アークは深く息を吸う。
「行きましょう。
僕たちの――自由のために。」
ロイが歩き出し、
リリィが続く。
エファトは最後尾で、
薄く笑いながら呟いた。
「灰王連合か……
悪くない呼び名だ。」
新たなる戦いの幕が上がる。




