『裁かれる英雄』 ◆
灰夜の廃都。
かつて人が賑わった王都周辺都市は、
今では瓦礫と静寂しか残らない。
アークは少数精鋭の騎士を率い、
灰王の痕跡を追っていた。
ラーメルが冷たく言い放つ。
「この辺りに奴が潜伏している可能性が高い。
見つけたら即報告だ。」
アークは返事をせず、
瓦礫の影で震える人影に気づく。
「大丈夫ですか?」
膝を折って手を差し伸べる。
少女は怯えながらも答えた。
「……行かないで……灰王さまを……守って……」
アークは言葉を失う。
(まただ……
“悪”ではなく、“守られる存在”だと?)
少女は続ける。
「灰王さまは、魔物からも……
人間からも……私たちを守ってくれる……」
アークの胸が強く痛んだ。
ラーメルが少女の腕を掴む。
「灰王に洗脳された哀れな民だ。
拘束しろ。」
アークは思わずラーメルの手を叩く。
「やめろ!!
彼女は傷ついた被害者だ!!」
ラーメルは睨みつけた。
「お前もだ。
灰王に甘い感情を抱く者は、全員敵だ。」
その言葉に、アークは怒りを噛みしめた。
(これが……正義?)
◆
そのとき。
カツン――と、
音もなく誰かが瓦礫の上に降り立つ。
騎士たちの視線が一斉に向く。
そこに立っていたのは。
黒い外套。
背に灰の剣。
表情の奥に静かな狂気と、人間らしい温度。
灰王ロイ。
「……俺を探してたんだろ?」
空気が支配される。
ただ立っているだけなのに。
ラーメルが叫ぶ。
「灰王ロイ!!!捕らえろ!!!」
騎士たちが殺到する。
ロイは剣を抜かない。
ただ軽く手を払うだけで――
ボコォッッ!!!
全員が吹き飛ばされた。
ラーメルも転がる。
アークは呆然とその光景を見つめる。
ロイがゆっくり歩み寄ってくる。
アークの前で立ち止まり、
かすかに首を傾けた。
「……確かお前、前にも助けたよな。」
アークは震える声で答える。
「なぜ……どうしてあなたは……
人を、助けるんですか……?」
ロイは少しだけ目を伏せる。
「助けたっていうより、
勝手に体が動いただけだ。」
その言葉は、あまりにも――人間だった。
「俺は……誰かを支配する気も、導く気もねぇ。
勝手に生きて、勝手に守る。
文句あるか?」
アークの胸が熱くなる。
(これが……自由……?)
ロイは続ける。
「お前はどうしたい?
正義を守りてぇのか、
誰かの命を守りてぇのか。」
アークは答えに詰まる。
ロイはわずかに笑った。
「迷っていいんだよ。
人間は迷って、選んで、生きるんだ。」
その言葉が、
アークの信じてきた正義を根本から揺らす。
「俺が敵だと思うなら、斬れ。
俺を見て、感じたもの全部――
お前の答えにしろ。」
アークの手が震える。
槍を握る手。
それは正義か。
それとも恐怖か。
そして、決意が宿る。
アークは槍を拾い上げた。
その穂先を――
ラーメルへと向けた。
「僕は……
真実から目を背けたくない!!」
ラーメルが目を見開く。
「愚か者が!!!
灰王に寝返る気か!!!」
アークは叫ぶ。
「違う!!
僕は自分の目で見たものを信じる!!
“人を殺さない灰王”を!!!」
ロイがほんの少し微笑む。
「良い目してるじゃねぇか。」
◆
ラーメルは震える声で命令を飛ばす。
「裏切り者だ!!
アークを捕らえろぉッ!!!」
兵たちが一斉に襲いかかる。
アークはロイの背に立ち、
「僕が守ります――あなたの自由を!!」
ロイは驚いたような表情を見せ、
すぐに笑った。
「いいね。
俺はお前の正義、嫌いじゃねぇよ。」
灰王と聖騎士が、
背中を預けて戦いの檻に立つ。
互いに違う正義を持ちながら、
同じ方向を向いて。
◆
戦いの火蓋は切られた。
灰と光が交わり、
世界はまた、彼らを裁こうとする。
それでもアークは信じた。
――この男こそ、本当の“救い”だ。




