『正義の綻び』 ◆
王都へ戻ったアークは、
すぐさま議会報告室に呼び出された。
円卓の中心で議長イストラムが問いただす。
「灰王と遭遇したと聞いた。
状況を詳細に報告せよ。」
アークは深呼吸し、正直に語る。
「はい。
灰王は突如現れ、魔物を一刀で斬り……
我々に危害を加えることなく、
姿を消しました。」
議員たちにざわめきが走る。
イストラムは眉ひとつ動かさず言う。
「……つまり、我々を嘲笑ったのだな。」
アークは首を振る。
「違います!
灰王ロイは、僕を――助けました。」
その瞬間、議場の空気が凍った。
◆
「助けた……?」
議員の一人が吐き捨てる。
「灰王が人を救うわけがない。」
「洗脳されかけているのでは?」
アークは食ってかかる。
「洗脳など――」
しかしラーメル副官が口を挟んだ。
「彼は魔物に挟まれた隊長を使い、
我々を侮辱したのです。
わざと“見逃した”んですよ。」
アークは凍りついた。
嘘だ。
だが議員たちは頷き合っている。
「ああ……灰王は残忍だ。」
「犠牲を弄ぶ怪物……恐ろしい……!」
イストラムが宣言する。
「灰王は悪であり、討伐対象。
これは揺るがぬ事実だ。」
アークは唇を噛むしかなかった。
(僕は、真実を伝えたはずなのに……
なぜ……?)
◆
会議の後。
アークが廊下を歩くと、
ラーメルが肩を並べてきた。
「無駄ですよ、隊長。
人は見たいものしか見ないんです。」
「……真実より、恐怖を信じるというのか?」
「そう。
だからこそ我々が“正義”なのです。」
ラーメルの笑みは、冷たい。
「正義とは、都合の良い信仰だ。
灰王こそ悪であり、だからこそ討つ。」
アークの拳が震えた。
(これは、本当に……正義なのか?)
◆
その夜。
アークは騎士団舎の屋上に座り、
遠くの夜空を見上げていた。
(ロイ……王……
あなたは何を守って戦った?
なぜ人を救った?
なぜ……殺さなかった?)
答えは風に溶けて返ってこない。
薄雲の向こうで、月が微かに光っていた。
アークは、ただ呟く。
「……僕はもう……
何を信じているのだろう。」
その目の奥で、
信じてきた“正義”が音を立てて崩れていた。
◆
翌朝。
アークは再び命令を受けた。
「次の任務だ。
灰王の居場所を掴んだ。
捕縛せよ、アーク・ヴァルディス。」
アークの心が静かに怒りで満たされる。
(捕縛……?
殺すとは言わないのか?
なぜ言い換える?)
(なぜ……嘘で固める?)
槍を握る手に力がこもる。
(俺は……真実を見たい……)
目の前には、
議会の“正義”とロイの“自由”。
どちらが正しいのか。
答えはまだ出ない。
だが。
アークは心に決めた。
――自分で見たものだけを信じる。
その誓いが、彼を運命へ導く。
灰王との再会へ。




