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『正義の綻び』 ◆

王都へ戻ったアークは、

すぐさま議会報告室に呼び出された。


円卓の中心で議長イストラムが問いただす。


「灰王と遭遇したと聞いた。

状況を詳細に報告せよ。」


アークは深呼吸し、正直に語る。


「はい。

灰王は突如現れ、魔物を一刀で斬り……

我々に危害を加えることなく、

姿を消しました。」


議員たちにざわめきが走る。


イストラムは眉ひとつ動かさず言う。


「……つまり、我々を嘲笑ったのだな。」


アークは首を振る。


「違います!

灰王ロイは、僕を――助けました。」


その瞬間、議場の空気が凍った。



「助けた……?」

議員の一人が吐き捨てる。


「灰王が人を救うわけがない。」

「洗脳されかけているのでは?」


アークは食ってかかる。


「洗脳など――」


しかしラーメル副官が口を挟んだ。


「彼は魔物に挟まれた隊長を使い、

我々を侮辱したのです。

わざと“見逃した”んですよ。」


アークは凍りついた。


嘘だ。

だが議員たちは頷き合っている。


「ああ……灰王は残忍だ。」

「犠牲を弄ぶ怪物……恐ろしい……!」


イストラムが宣言する。


「灰王は悪であり、討伐対象。

これは揺るがぬ事実だ。」


アークは唇を噛むしかなかった。


(僕は、真実を伝えたはずなのに……

なぜ……?)



会議の後。

アークが廊下を歩くと、

ラーメルが肩を並べてきた。


「無駄ですよ、隊長。

人は見たいものしか見ないんです。」


「……真実より、恐怖を信じるというのか?」


「そう。

だからこそ我々が“正義”なのです。」


ラーメルの笑みは、冷たい。


「正義とは、都合の良い信仰だ。

灰王こそ悪であり、だからこそ討つ。」


アークの拳が震えた。


(これは、本当に……正義なのか?)



その夜。


アークは騎士団舎の屋上に座り、

遠くの夜空を見上げていた。


(ロイ……王……

あなたは何を守って戦った?

なぜ人を救った?

なぜ……殺さなかった?)


答えは風に溶けて返ってこない。


薄雲の向こうで、月が微かに光っていた。


アークは、ただ呟く。


「……僕はもう……

何を信じているのだろう。」


その目の奥で、

信じてきた“正義”が音を立てて崩れていた。



翌朝。


アークは再び命令を受けた。


「次の任務だ。

灰王の居場所を掴んだ。

捕縛せよ、アーク・ヴァルディス。」


アークの心が静かに怒りで満たされる。


(捕縛……?

殺すとは言わないのか?

なぜ言い換える?)


(なぜ……嘘で固める?)


槍を握る手に力がこもる。


(俺は……真実を見たい……)


目の前には、

議会の“正義”とロイの“自由”。


どちらが正しいのか。

答えはまだ出ない。


だが。


アークは心に決めた。


――自分で見たものだけを信じる。


その誓いが、彼を運命へ導く。


灰王との再会へ。

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