瓦解の王都、始まりの呪い
神罰装備の崩壊から三日後。
王都グランベルトは静かに、だが確実に崩壊へ向かっていた。
まず起きたのは、「祝福装備の機能停止」。
聖騎士団は各地で“魔力暴走”を起こし、国境を守っていた精鋭部隊が消滅。
その空白を狙うように、周辺諸国や盗賊団が動き始めた。
──“祝福”は、もはや力ではない。
人々の間に広がるのは、「呪いを受けた者が神罰を破壊した」という“現実”への恐怖と疑念。
だが、王宮の玉座の間だけは例外だった。
王族と神殿、祝福を享受していた上級貴族たちは、
自分たちが“選ばれた者”であることを疑わず、こう叫んだ。
「呪われし者どもが“神罰”を破壊した? それは反逆だ! 即刻討伐せよ!」
だが、それに真っ向から異を唱える者がいた。
「……ならばその“神”は、ただの嘘だったということになる」
声の主は――《元・聖女ルミア》。
神罰装備から解放された彼女は、自ら“聖女”の名を返上し、
ロイの元に身を寄せていた。
「祝福とは、神が与えたものではない。人間が“神格を模倣”して作った幻想。
それが崩れただけのこと。
私はこの目で見た……ロイの“呪い”こそが、本物の力だと」
王都の中心で、かつての聖女が“神を否定”する。
それは、千年に渡る支配体系の終わりを告げる、確かな“裂け目”だった。
その夜、ロイはリリィと共に、王都地下へと足を運んでいた。
そこには、かつて“神の遺構”とされていた遺跡がある。
だが今は、異様な“呪いの気配”が充満していた。
「……わかるか? この感じ。俺たちの呪装とは違う。もっと……深い」
リリィはうなずいた。
「ここにあるのは、“最初の呪い”……つまり、《原呪》だと思う」
遺跡の最奥。
そこに、漆黒の鎧を纏ったひとりの男が立っていた。
鎧に刻まれた紋章は、現在の王家のものに酷似している。
「……来たか。呪装適応者。いや、カースリンクの継承者よ」
ロイは警戒を崩さず名乗る。
「お前が、“最初の呪われし者”か?」
男は静かにうなずいた。
「名を、アーク・カースという。
かつてこの世界に“祝福”を与えた、初代神官王の兄。
そして、この世界の“嘘”を作った、罪人のひとりだ」
リリィが驚愕する。
「……じゃあ、あなたは“祝福”を知っていたのに、なぜ“呪い”を?」
アークはゆっくりと語り始めた。
「この世界は、もとはすべて“呪い”でできていた。
祝福は、その呪いを“固定し、制御する”ための後付けにすぎん。
だが人々は祝福だけを求め、呪いを忌み嫌った。
そして……俺は“世界のバランス”を壊してしまったのだ」
その瞳には、後悔と、静かな憎悪が宿っていた。
「ロイ。お前が“神罰”を破壊したことで、バランスはようやく揺らぎ始めた。
だが――それだけでは足りぬ。
この世界を真に解き放つには、最も深い場所……“大呪核”を砕かねばならん」
リリィが口を開く。
「それって……世界の“根本”にある呪いってこと?」
アークは頷いた。
「そして、その場所へ行けるのは――お前たち、呪装適応者のみ」
沈黙が流れる。
やがてロイは静かに答えた。
「いいぜ。そこにこの世界の答えがあるってんなら、砕いてやるよ、“祝福の起源”ってやつを」
その頃、王都外縁。
廃棄された教会跡地に、黒い法衣を纏った者たちが集っていた。
「神罰は敗れ、聖女は堕ちた。
ならば今こそ、“真なる神”の復活を」
《新教団:白き虚神教》
《目的:呪いと祝福の完全融合》
《起動準備:神格適合者の再臨》
その影の中に、かつてロイたちと戦った“聖騎士”のひとりがいた。
彼の目は、“呪い”に侵食されながらも、狂気と信仰に染まっていた――




