『黒月の継承者』 ◆
大地が鳴動した。
血のように赤い光が、空を裂きながら走る。
世界中で、人々がその光を見上げていた。
「な、何だ……あれは……」
「空が……月が……!」
月が――黒へと染まってゆく。
リリィが震える声で呟く。
「黒月……!」
その瞬間、ロイの内側で
“何か”が脈動を始めた。
ドクン
呪いの紋が浮かび、体中を走る。
「ぐっ……!」
ロイが膝をつく。
リリィが慌てて駆け寄る。
「ロイ!?」
エファトが視線を鋭くする。
「来たか……最悪のタイミングで。」
◆
黒月の光が地を照らすと、
空間が裂け、黒い霧があふれ出す。
その中心から――
“人影”が一歩、また一歩と現れる。
禍々しい黒衣。
体表を走る無数の呪紋。
闇の王冠を戴いた、漆黒の存在。
「――よくぞここまで辿り着いた。
我が継承者、ロイよ。」
声は深く、
世界そのものから響くようだった。
ロイが苦痛に顔を歪めながら立ち上がる。
「継承者だと……?
ふざけんな……!」
男は静かに笑む。
「お前はこの世界唯一の、呪装適応者。
呪いを受け入れ、呪いを生きる者。
それはつまり――
我が意志の後継者に他ならない。」
リリィの顔が青ざめる。
「後継者……!?
どういうこと……?」
◆
黒月が完全に夜空を覆った。
そのとき、ロイの脳裏に
膨大な情報が流れ込む。
神話以前の記憶。
英雄がまだ“人間”ですらなかった時代。
黒月はこう語る。
『世界は、神によって“祝福”と“呪い”に分けられた。
呪いは常に虐げられ、
祝福者に利用され続けた。』
『ゆえに、我は反旗を翻した。
“呪いの民”を救わんがために。』
『だが敗れ、力は封じられた。
それでも待ち続けた。
呪いを誇る者が現れる、その日まで。』
ロイに流れ込む真実。
――呪いは負け続けた歴史
――黒月は救済者だった
――そしてロイはその最後の希望
ロイの心臓が強く跳ねる。
(俺は……アイツの代わり……?)
◆
黒月の王が、ロイに手を差し伸べる。
「この世界は、呪いを拒む。
祝福なき者を、人と認めぬ。」
「だが貴様は違う。
呪いを力に変え、人を守り、未来を創ろうとしている。」
「ロイよ。
我とともに神を屠り、
新たなる世界を築け。
呪いの自由を掲げる王として。」
リリィが叫ぶ。
「やめて!!
そんなのロイじゃない!!」
ロイの拳から血が滲む。
(俺が望んだのは……
誰も選ばれず、誰も捨てられない世界……)
だが黒月は甘く囁く。
「孤独に戦ってきたのだろう?
誰にも理解されず……
敵ばかり増えていく世界で。」
「お前を救えるのは、私だけだ。」
ロイの体は震えていた。
本当はずっと――
弱かった。
◆
影ロイの声が脳裏に響く。
『自由ってのはよ……
好きな奴のために、好きに戦えることだろ?』
リリィの涙が、ロイの拳に落ちる。
「私は……
ロイと一緒に……
歩きたい……!!」
その瞬間。
ロイの瞳に
光が戻った。
「悪いな。」
ロイは黒月に向き直る。
「俺は、てめぇのコピーじゃねえ。
俺は“俺のためだけ”に戦う。」
灰の剣を ——
真っすぐ黒月に向ける。
「呪いを選んだのは俺だ。
けど――
呪いに選ばれたつもりはねぇ。」
黒月が僅かに目を見開く。
「ほう。」
ロイは叫んだ。
「俺は俺の自由を貫く!!!
呪いに殉じる気なんて、これっぽっちもない!!!」
◆
黒月の王の笑みが深まる。
「ならば証明してみせよ。
呪いが神を超え得ることを。」
漆黒の王冠、浮遊。
闇の剣が呼応して顕現する。
『世界よ、震えよ――
灰王と黒王、いま相見える。』
ロイは灰の剣を構える。
「世界が俺を敵にするって言うなら、
その世界ごと斬り裂いてやる……!」
夜が裂け、
灰色の自由と、漆黒の呪いが激突した。




