『灰の自由、闇の自由』 ◆
灰と闇が渦巻き、世界そのものが悲鳴を上げる。
その中心で、二人のロイが向かい合っていた。
同じ姿。
同じ心。
同じ“呪い”。
だが──
片方には、人を守る意思があり、
もう片方には、壊す快楽しかない。
「俺はお前だ。
何を綺麗事を並べても、
壊すことでしか自分を証明できないクズだ。」
影ロイが苦笑して剣を構える。
「なぁ?
気持ちいいんだろ?
世界中から恐れられるのがよ。」
「――あぁ、気持ちいいさ。」
ロイは正面から否定しなかった。
影ロイの目が細まる。
「だったら……」
ロイは続きを遮った。
「でも、それだけじゃ足りない。」
影ロイが鼻を鳴らす。
「強がりか?」
「違ぇよ。」
ロイは自分の胸に手を当てた。
「俺は、守りたい人がいる。
それが理由になる。
それで十分なんだ。」
影ロイの顔が苦悶に歪む。
「そんなもん……弱さだ。」
「そうだよ。俺は弱い。
だから戦うんだ。」
◆
影ロイが叫び、闇が爆ぜる。
「弱さを認めた瞬間、
世界に食われるぞ!!!」
闇が口を開き、ロイを呑み込もうと迫る。
だがロイは動かない。
背後で震える少女の存在を思い出す。
「食われたら食われ返す。
嫌われたら嫌われ返す。
それでも──誰かの側に立つ。」
握った剣に、光が宿り始める。
影ロイは怒鳴る。
「それは自由じゃない!!」
「そうか?」
ロイの瞳は澄んでいた。
「自由ってのは──
好きな奴のために、好きに戦えることだ。」
その言葉に、黒い闇が停滞する。
影ロイは、笑ったのか、泣いたのかわからない声を上げた。
「……そんな勝手な自由、許されると思うか?」
「許されるかどうかなんて、
俺が決める。」
灰の剣が、真っすぐ影ロイを貫いた。
◆
影ロイの形が崩れ、
灰となって風に溶けていく。
「自由ってのはな──」
ロイは呟く。
「“選ばれた側”じゃなく、
“選ぶ側”が持つ権利だ。」
最後まで消えずに残った影の瞳が、
どこか満足げだった。
「……羨ましいよ。
俺は自由が怖かった。」
ロイはその言葉に首を振る。
「怖いから、生きてる。
怖いなら、進めばいい。」
影は笑みを残し──消えた。
◆
闇が晴れた。
リリィが駆け寄る。
「ロイ!ロイ!!」
ロイは右手でそっと彼女の頭を撫でる。
「大丈夫。俺はまだ俺だ。」
その言葉に、リリィの涙が溢れた。
エファトが歩み寄り、肩を叩く。
「乗り越えたか。」
ロイは小さく頷く。
「自由は奪われるもんじゃない。
自分で掴むもんだ。」
その瞬間、
空が赤く染まり始めた。
◆
世界の彼方。
黒月の欠片が禍々しい鼓動を打つ。
『よくぞ“呪い”を選んでくれた……継承者よ。』
光が世界を走り──
どこかで巨大な咆哮があがる。
新たな脅威が──
世界に再び影を落とす。
ロイは口角を上げた。
「世界はまた俺を敵にするつもりか……
上等だ。」
灰王ロイ。
呪いに愛され、
自由に生きる者。
彼の戦いは、まだ終わらない。




