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『呪いに愛されし者』 ◆

ロイが立つたびに、

その足元から灰が舞い上がり、空を濁らせていく。


戦場の狂気は、もはや日常。

人類全てが敵でも。

自由のためなら、悪になる。


(俺が壊れればいい。

俺一人が全部引き受ければ――)


そう信じていた。


だが。


「ロイ、やめて……お願いだから……」


震える声が、背中を掴んで離さない。


リリィの手は小さくても、

その願いは、世界より重かった。



「ロイさん。」

エファトも視線を向けてくる。


「お前のやっている事は矛盾に満ちている。

“世界を救うために壊す”という発想そのものがな。」


ロイは静かに笑う。


「いいんだよ。

俺は矛盾を抱えてでも、

前に進むって決めたから。」


エファトは目を細め、声を落とす。


「……ただし、その矛盾に呑まれれば。

いずれ――お前の心が壊れる。」


その忠告が、ロイの胸に刺さる。


――それでも。


「壊れたら、お前らが止めてくれ。」


ロイは風に向かって歩き出した。


リリィは必死に追いすがる。


(止めるなんて……できるわけない……!)



荒野の中心。

灰が渦を巻き、空間が裂ける。


そこから溢れ出したのは、

黒月の遺灰――に似た、濃密な呪力。


(……来たか。)


ロイの呪いの紋様が疼き出す。


黒月の声が、

脳へ直接響く。


『呪いを選んだその瞬間から……

お前は呪いに愛されたのだ。』


『お前は、呪いなしでは生きられない。

呪いこそが……お前という存在の証。』


ロイは歯を噛み締める。


「違う……俺は呪いなんかで……」


『否。

呪いが“お前を選んだ”のだ。』



空に昇る黒炎。

灰が凝縮し、形になっていく。


現れたのは――ロイの“影”。


全身が黒く染まり、

同じ顔、同じ声。


「俺はお前。

お前は俺。」


影ロイが、不敵に笑う。


「お前は自由なんかじゃない。

ただ“壊すことが気持ちいいだけ”の……」


刹那、刃が火花を散らす。


灰王が、灰王を切り裂こうとする。


「黙れ。」


ロイは振り抜く。


「俺は……自由になるッ!!!!」


しかし――


影ロイは一歩も退かない。


むしろ、押し返してくる。


「なら証明してみろよ。

呪いなしで、誰かを救ってみせろ。」


――その瞬間。


ロイの心臓が、

激しく悲鳴を上げた。



リリィが駆け寄る。


「ロイ!!」


拳を握る手が震える。

ロイの中の呪いが暴れ、制御不能になる。


エファトが叫ぶ。


「ロイ!呪いに飲まれるな!!

その影はお前自身だ!!

“英雄”“王”“世界の敵”!

全てを押し付けられ、積み重ねた憎悪だ!!」


影ロイが、嗤う。


「さぁどうする?

自由を語ったお前は、

呪いに食われて終わりか?

それとも……」


刃先がロイの喉に触れる。


「呪いを飲み込んで、

本物の怪物になるのか?」


ロイの瞳が震える。


(俺は……何のために戦ってる?

誰のために……?

俺は……)


その問いに、答えはまだない。



だが。


震える手を、

そっと包む者がいた。


「ロイ。

どんなあなたでも……

私は、愛してる。」


リリィの声は、呪いの渦を裂いた。


ロイが小さく息を呑む。


影ロイの表情が揺らぐ。


「……愛、だと?」


リリィは涙を拭い、真っすぐ見つめる。


「呪いがロイを選んだなら、

私は――ロイを選ぶ。」


ロイの瞳に、灯りが戻る。


「……悪いな、俺はまだ……」


灰の剣が、ゆっくりと握り直される。


「怪物になるには、早すぎる。」



影ロイが吠えた。


「自由なんて、クソ喰らえ!!!」


ロイは答える。


「自由こそが、全部の答えだ!!!!」


二つのロイが再び激突し、

闇と灰が空を覆い尽くす。


“呪いの核心”を巡る戦いが、いま始まった。

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