『呪いに愛されし者』 ◆
ロイが立つたびに、
その足元から灰が舞い上がり、空を濁らせていく。
戦場の狂気は、もはや日常。
人類全てが敵でも。
自由のためなら、悪になる。
(俺が壊れればいい。
俺一人が全部引き受ければ――)
そう信じていた。
だが。
「ロイ、やめて……お願いだから……」
震える声が、背中を掴んで離さない。
リリィの手は小さくても、
その願いは、世界より重かった。
◆
「ロイさん。」
エファトも視線を向けてくる。
「お前のやっている事は矛盾に満ちている。
“世界を救うために壊す”という発想そのものがな。」
ロイは静かに笑う。
「いいんだよ。
俺は矛盾を抱えてでも、
前に進むって決めたから。」
エファトは目を細め、声を落とす。
「……ただし、その矛盾に呑まれれば。
いずれ――お前の心が壊れる。」
その忠告が、ロイの胸に刺さる。
――それでも。
「壊れたら、お前らが止めてくれ。」
ロイは風に向かって歩き出した。
リリィは必死に追いすがる。
(止めるなんて……できるわけない……!)
◆
荒野の中心。
灰が渦を巻き、空間が裂ける。
そこから溢れ出したのは、
黒月の遺灰――に似た、濃密な呪力。
(……来たか。)
ロイの呪いの紋様が疼き出す。
黒月の声が、
脳へ直接響く。
『呪いを選んだその瞬間から……
お前は呪いに愛されたのだ。』
『お前は、呪いなしでは生きられない。
呪いこそが……お前という存在の証。』
ロイは歯を噛み締める。
「違う……俺は呪いなんかで……」
『否。
呪いが“お前を選んだ”のだ。』
◆
空に昇る黒炎。
灰が凝縮し、形になっていく。
現れたのは――ロイの“影”。
全身が黒く染まり、
同じ顔、同じ声。
「俺はお前。
お前は俺。」
影ロイが、不敵に笑う。
「お前は自由なんかじゃない。
ただ“壊すことが気持ちいいだけ”の……」
刹那、刃が火花を散らす。
灰王が、灰王を切り裂こうとする。
「黙れ。」
ロイは振り抜く。
「俺は……自由になるッ!!!!」
しかし――
影ロイは一歩も退かない。
むしろ、押し返してくる。
「なら証明してみろよ。
呪いなしで、誰かを救ってみせろ。」
――その瞬間。
ロイの心臓が、
激しく悲鳴を上げた。
◆
リリィが駆け寄る。
「ロイ!!」
拳を握る手が震える。
ロイの中の呪いが暴れ、制御不能になる。
エファトが叫ぶ。
「ロイ!呪いに飲まれるな!!
その影はお前自身だ!!
“英雄”“王”“世界の敵”!
全てを押し付けられ、積み重ねた憎悪だ!!」
影ロイが、嗤う。
「さぁどうする?
自由を語ったお前は、
呪いに食われて終わりか?
それとも……」
刃先がロイの喉に触れる。
「呪いを飲み込んで、
本物の怪物になるのか?」
ロイの瞳が震える。
(俺は……何のために戦ってる?
誰のために……?
俺は……)
その問いに、答えはまだない。
◆
だが。
震える手を、
そっと包む者がいた。
「ロイ。
どんなあなたでも……
私は、愛してる。」
リリィの声は、呪いの渦を裂いた。
ロイが小さく息を呑む。
影ロイの表情が揺らぐ。
「……愛、だと?」
リリィは涙を拭い、真っすぐ見つめる。
「呪いがロイを選んだなら、
私は――ロイを選ぶ。」
ロイの瞳に、灯りが戻る。
「……悪いな、俺はまだ……」
灰の剣が、ゆっくりと握り直される。
「怪物になるには、早すぎる。」
◆
影ロイが吠えた。
「自由なんて、クソ喰らえ!!!」
ロイは答える。
「自由こそが、全部の答えだ!!!!」
二つのロイが再び激突し、
闇と灰が空を覆い尽くす。
“呪いの核心”を巡る戦いが、いま始まった。




