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『灰色の戦場』 ◆

夜明け前の空が、鉛色に濁っていた。


かつて英雄たちが守った大地。

いま、その上に世界中の旗が立ち並ぶ。


「全軍、陣形を整えよ!

神殺しをこの地にて討つ!!」


指揮官の咆哮。

数万の兵士が、一斉に武器を構える。


大地が震え、空気が張り詰めた。

——世界はひとつになった。

ただ一人を殺すために。



丘の上。


ロイは、揺れる草の上に立っていた。

風に揺れる黒髪。

背には、呪いでも祝福でもない 灰の剣。


その表情には、もう迷いはなかった。


「……敵に囲まれている状況は、慣れちまったな。」


呟きは自嘲とも、覚悟ともつかない。


リリィとエファトが後ろに立つ。

ふたりの視線は揺れない。

ロイの背を見失うつもりはない。


「ロイ。

私たちがいる。ひとりじゃない。」

リリィの声は震えていたが、強かった。


「背中を預けろ。」

エファトの声には、かつてない決意がある。


ロイは小さく笑う。


「心強いな。」


でもその笑みの裏には——

ぜったいに、ふたりだけは守るという

果てしない重圧があった。



合図と共に、大砲が火を噴く。


轟音。

土煙。

爆裂する光。


「――来い。」


ロイは一歩踏み出し、灰の剣を振り下ろした。


轟ッ!!


地平線まで続く巨大な断層が走り、

突撃していた軍勢が一斉に吹き飛ぶ。


兵たちの恐怖が、一気に爆発した。


「あれが……“人間”の力か!?」

「化け物め……!化け物めぇぇっ!!」


「そうだよ。」

ロイは小さく呟く。


「化け物でもいい。

——“俺のせいにできる”ならな。」


その声には皮肉も虚無もなかった。

ただ、静かな哀しみが滲む。



空気を切り裂き、黒い魔力が降り注ぐ。


「世界が敵なら、戦って勝つだけだ。」


ロイの足元から灰が舞い上がり、

軍勢へ襲い掛かる。


――その時。


「やりすぎだ、ロイ。」


空から一筋の光が落ちてきた。


砕けた鎧を纏いながらも堂々と立つひとりの男。

その剣は聖騎士の象徴——

祝福なき世界でなお輝く、最後の光。


リリィが息を呑む。


「あれは……!」


エファトが目を細める。


「……黒槍隊長バルドル。

英雄再生計画の生き残りだ。」


「神がいなくても、正義は死なない。」

バルドルは堂々と剣を掲げる。


「ロイ・アーデン!

貴様は、人類の敵だ!!」


怒号が轟く。

兵たちは再び勇気を取り戻す。


ロイはため息をひとつ。


「人類の敵、ね。

悪くねぇ。」


灰の剣を構える。


両者の視線がぶつかった──


その瞬間、戦場の空気が凍りついた。


王 vs. 正義

世界 vs. ロイ


避けられない運命が、いま幕を開ける。



遠くの闇の底。

崩れた黒月の欠片が、静かに笑う。


『人はまた、呪いを求める。

その呪いの名は——灰王。』


戦争はまだ始まったばかり。

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