『灰色の戦場』 ◆
夜明け前の空が、鉛色に濁っていた。
かつて英雄たちが守った大地。
いま、その上に世界中の旗が立ち並ぶ。
「全軍、陣形を整えよ!
神殺しをこの地にて討つ!!」
指揮官の咆哮。
数万の兵士が、一斉に武器を構える。
大地が震え、空気が張り詰めた。
——世界はひとつになった。
ただ一人を殺すために。
◆
丘の上。
ロイは、揺れる草の上に立っていた。
風に揺れる黒髪。
背には、呪いでも祝福でもない 灰の剣。
その表情には、もう迷いはなかった。
「……敵に囲まれている状況は、慣れちまったな。」
呟きは自嘲とも、覚悟ともつかない。
リリィとエファトが後ろに立つ。
ふたりの視線は揺れない。
ロイの背を見失うつもりはない。
「ロイ。
私たちがいる。ひとりじゃない。」
リリィの声は震えていたが、強かった。
「背中を預けろ。」
エファトの声には、かつてない決意がある。
ロイは小さく笑う。
「心強いな。」
でもその笑みの裏には——
ぜったいに、ふたりだけは守るという
果てしない重圧があった。
◆
合図と共に、大砲が火を噴く。
轟音。
土煙。
爆裂する光。
「――来い。」
ロイは一歩踏み出し、灰の剣を振り下ろした。
轟ッ!!
地平線まで続く巨大な断層が走り、
突撃していた軍勢が一斉に吹き飛ぶ。
兵たちの恐怖が、一気に爆発した。
「あれが……“人間”の力か!?」
「化け物め……!化け物めぇぇっ!!」
「そうだよ。」
ロイは小さく呟く。
「化け物でもいい。
——“俺のせいにできる”ならな。」
その声には皮肉も虚無もなかった。
ただ、静かな哀しみが滲む。
◆
空気を切り裂き、黒い魔力が降り注ぐ。
「世界が敵なら、戦って勝つだけだ。」
ロイの足元から灰が舞い上がり、
軍勢へ襲い掛かる。
――その時。
「やりすぎだ、ロイ。」
空から一筋の光が落ちてきた。
砕けた鎧を纏いながらも堂々と立つひとりの男。
その剣は聖騎士の象徴——
祝福なき世界でなお輝く、最後の光。
リリィが息を呑む。
「あれは……!」
エファトが目を細める。
「……黒槍隊長バルドル。
英雄再生計画の生き残りだ。」
「神がいなくても、正義は死なない。」
バルドルは堂々と剣を掲げる。
「ロイ・アーデン!
貴様は、人類の敵だ!!」
怒号が轟く。
兵たちは再び勇気を取り戻す。
ロイはため息をひとつ。
「人類の敵、ね。
悪くねぇ。」
灰の剣を構える。
両者の視線がぶつかった──
その瞬間、戦場の空気が凍りついた。
王 vs. 正義
世界 vs. ロイ
避けられない運命が、いま幕を開ける。
◆
遠くの闇の底。
崩れた黒月の欠片が、静かに笑う。
『人はまた、呪いを求める。
その呪いの名は——灰王。』
戦争はまだ始まったばかり。




