『世界の敵』 ◆
――世界は、神を失った。
しかし、その空白を埋めるのは“自由”ではなかった。
民衆は不安を抱き、
貴族は権力を失い、
教会は信仰を失った。
そして彼らは、共通の答えを見つけた。
「すべては、神殺しのせいだ。」
その囁きは、
瞬く間に「真実」として広まっていった。
◆
ロイたちは、古い集落跡に身を寄せていた。
焚き火を囲み、夜の静けさに包まれる。
リリィが震えた声で言う。
「ロイ……街ではもう、“世界の敵”って……」
ロイはため息をつき、空を見上げる。
黒い夜空は、どこまでも無慈悲だった。
「敵で結構。
誰かが敵でいてやらなきゃ――世界は思考停止する。」
どこか投げやりな響き。
しかし、その奥には確かな覚悟。
エファトが小さく笑う。
「世界中を敵に回して笑う者を、
私は一人しか知らない。」
ロイは眉をひそめた。
「誰だよ、そいつ。」
「お前だよ。」
ロイは乾いた笑いを漏らした。
◆
その時。
村の入り口が炎に包まれた。
「ロイを捕らえろォォ!!!」
怒号と共に、騎士団が突入してくる。
旗に描かれた紋章――
『世界秩序連合』
神殺しを討つため、
世界中の国々が手を組んだ軍勢。
ロイはゆっくりと立ち上がる。
焚き火の光がその瞳を照らす。
「……世界が俺を敵にするってんなら」
灰の剣が唸りを上げる。
「俺は世界を敵にしてやる。」
◆
「捕縛対象、ロイ・アーデン!!
即刻、処刑する!!」
指揮官が叫び、光の大砲が放たれる。
ドォォォン!!!
衝撃が大地を裂き、炎が上がる。
ロイがいた場所は炎に包まれ――
「ロイ!!!」
リリィが叫ぶ。
だが――
炎の中から、灰色の光が立ち上る。
ロイは無傷。
灰の剣が、全てを飲み込む。
灰が舞い、世界がざわつく。
「おかしいだろ?」
ロイの声は、静かだった。
「平和を望むなら、
まず俺を倒さなきゃならない。」
◆
その言葉に、兵たちの顔が歪む。
ロイはさらに言葉を重ねる。
「だがな。
俺を倒すのは――俺以外の“人間”じゃなきゃ意味がない。」
沈黙が落ちる。
「神や祝福を盾に戦う奴らが、
人間を名乗るな!」
ロイが踏み込む。
一瞬で十数人が吹き飛ぶ。
「ロイやめて!!!」
リリィが必死に叫ぶが――
止まらない。
世界がロイを悪とするなら、
ロイは悪を演じる。
彼が選んだ“自由”のために。
◆
戦いの後。
血に濡れた大地に立ち尽くすロイに、
エファトが声をかける。
「お前はいずれ――本物の怪物になるぞ。」
ロイは、わずかに笑った。
「なってやるよ。
世界が俺を必要とするならな。」
その背中は、孤独だった。
でも――誰よりも強かった。
リリィは胸を押さえ、
必死に言葉を絞り出した。
「……私が止める。
ロイが壊れきる前に。
絶対に……!」
灰色の空に、
灰色の王に、
灰色の戦争が迫っていた。




