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『世界の敵』 ◆

――世界は、神を失った。

しかし、その空白を埋めるのは“自由”ではなかった。


民衆は不安を抱き、

貴族は権力を失い、

教会は信仰を失った。


そして彼らは、共通の答えを見つけた。


「すべては、神殺しのせいだ。」


その囁きは、

瞬く間に「真実」として広まっていった。



ロイたちは、古い集落跡に身を寄せていた。

焚き火を囲み、夜の静けさに包まれる。


リリィが震えた声で言う。

「ロイ……街ではもう、“世界の敵”って……」


ロイはため息をつき、空を見上げる。

黒い夜空は、どこまでも無慈悲だった。


「敵で結構。

誰かが敵でいてやらなきゃ――世界は思考停止する。」


どこか投げやりな響き。

しかし、その奥には確かな覚悟。


エファトが小さく笑う。

「世界中を敵に回して笑う者を、

私は一人しか知らない。」


ロイは眉をひそめた。

「誰だよ、そいつ。」


「お前だよ。」


ロイは乾いた笑いを漏らした。



その時。


村の入り口が炎に包まれた。


「ロイを捕らえろォォ!!!」

怒号と共に、騎士団が突入してくる。


旗に描かれた紋章――

『世界秩序連合』


神殺しを討つため、

世界中の国々が手を組んだ軍勢。


ロイはゆっくりと立ち上がる。

焚き火の光がその瞳を照らす。


「……世界が俺を敵にするってんなら」


灰の剣が唸りを上げる。


「俺は世界を敵にしてやる。」



「捕縛対象、ロイ・アーデン!!

即刻、処刑する!!」


指揮官が叫び、光の大砲が放たれる。


ドォォォン!!!


衝撃が大地を裂き、炎が上がる。

ロイがいた場所は炎に包まれ――


「ロイ!!!」

リリィが叫ぶ。


だが――


炎の中から、灰色の光が立ち上る。


ロイは無傷。

灰の剣が、全てを飲み込む。


灰が舞い、世界がざわつく。


「おかしいだろ?」

ロイの声は、静かだった。


「平和を望むなら、

まず俺を倒さなきゃならない。」



その言葉に、兵たちの顔が歪む。


ロイはさらに言葉を重ねる。


「だがな。

俺を倒すのは――俺以外の“人間”じゃなきゃ意味がない。」


沈黙が落ちる。


「神や祝福を盾に戦う奴らが、

人間を名乗るな!」


ロイが踏み込む。


一瞬で十数人が吹き飛ぶ。


「ロイやめて!!!」

リリィが必死に叫ぶが――


止まらない。


世界がロイを悪とするなら、


ロイは悪を演じる。


彼が選んだ“自由”のために。



戦いの後。


血に濡れた大地に立ち尽くすロイに、

エファトが声をかける。


「お前はいずれ――本物の怪物になるぞ。」


ロイは、わずかに笑った。


「なってやるよ。

世界が俺を必要とするならな。」


その背中は、孤独だった。

でも――誰よりも強かった。


リリィは胸を押さえ、

必死に言葉を絞り出した。


「……私が止める。

ロイが壊れきる前に。

絶対に……!」


灰色の空に、

灰色の王に、

灰色の戦争が迫っていた。

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