『初代灰王の誕生』 ◆
「灰王ロイ様、バンザイ!!」
「救ってくれた英雄だ!王となるべきだ!!」
街の中央広場。
たった一夜の出来事が、民衆の認識を狂わせていた。
崩れゆく世界の中、
ただ一人“圧倒的な力”を示した男。
その偶像化は、止まらなかった。
「違うんだよ……」
ロイは頭を抱える。
あれほど拒んだというのに。
壊したはずなのに。
世界はまた「英雄」を求めている。
◆
リリィはそっとロイへ近づいた。
「ロイはみんなを救ったから……
だから、信じたいんだよ。ロイなら大丈夫って。」
「信じるって言葉はなぁ……」
ロイは苦く笑う。
「便利すぎる。」
信じたと言いながら、
都合が変われば裏切る。
そんなことを、何度も見てきた。
――英雄失格
――王失格
――呪いの災厄
どれも同じだ。
◆
そこへ、王国残党による“仮初めの使者”が現れる。
「ロイ殿、これを……!」
差し出されたのは、一振りの剣。
かつて王が戴いた象徴――“王位剣”。
その刃は鈍く光り、
王家の紋は削られ、灰で塗り潰されていた。
ロイは一目見ただけで吐き気がした。
「断る。」
「ですが――!」
エファトが代わりに踏み出し、柄を掴む。
「王家を否定する象徴をよくここまで。
これをロイに差し出す意図は理解した。」
だがエファトはすぐに剣を地に叩きつけた。
「だが間違っている。“象徴”を作る行為自体がな。」
使者は驚愕する。
エファトは静かに続けた。
「ロイが灰王なら、それは新たな独裁の始まりだ。」
民衆がざわつく。
「……独裁だと?」
ロイは眉をひそめる。
「そうだ。」とエファト。
「“ロイを信じる”と言えば、考えずに従っていいと錯覚する。
それは信頼ではなく――依存だ。」
リリィの胸が強く痛んだ。
(私だって……ロイに依存してる……?)
◆
その時。
地面が震えた。
黒灰の霧が広場中央に噴き上がる。
「──っ!!」
ロイは即座に前へ出て、《灰の剣》を構える。
霧の中心から浮かび上がったのは……
●黒い祝福の紋
●呪いと祝福の混ざった装甲
●唸る双眸
「……英雄?」
リリィが呟く。
いや――それは。
「違う。英雄の“残骸”だ。」
神造炉が崩壊し、
祝福と呪いの力が混じり合って生まれた“副産物”。
名も、意志もない。
ただ“強者を王とする”本能だけが残った怪物。
怪物は叫ぶ。
「灰王……灰王……!!
強い者が……王!!」
ロイへ向けて突進。
民衆は逃げ出し、歓声は悲鳴へ変わる。
ロイは前へ出た。
「今度は“頼られて”じゃない。
俺が選んで、斬る。」
灰の刃が、怪物の体を一閃する。
黒灰の血が散り、
怪物は崩れ落ちた。
◆
その一瞬。
民衆は理解した。
――ロイは強い
――ロイが守ってくれる
――ロイこそ王だ
狂った結論が、さらに強まっていく。
「灰王バンザイ!!!」
「助けてくれた!!新しい世界の王だ!!」
ロイは黙って剣を握る。
本当に欲しかった未来から、
また遠ざかっていく気がした。
リリィが震えながら、彼の名を呼ぶ。
「ロイ……」
エファトが低く告げる。
「世界は、お前から主導権を奪い取ろうとしている。」
ロイは空を睨む。
「――上等だ。」
声は震えていなかった。
「世界が強制する王なら……俺が拒み続けてやる。」
灰の剣を背負い、ロイは歩き出す。
自分の意思で。
英雄でも王でもなく――ただのロイとして。
◆
だが――遠方の闇で。
黒月の遺灰が、ひそかに脈打っていた。
「……呪いは終わらない。
英雄を廃したその男が、
いずれ“最悪の王”となる。」
誰かが笑った。
それが誰なのか、まだ誰も知らない。




