『王の亡霊』
ロイは包囲する王国残党たちの中へと歩みを進めた。
剣を構えた兵、怒りに燃える目。
そして――彼らの期待。
「神がいなくなった今、
次に必要なのは“王”だ!」
先頭の男が叫ぶ。
その声には、かすかに震えが混じっていた。
「秩序を!指導者を!
ロイ・アーデン!王国の血を引く貴様なら!!
再び我らを導けるはずだ!!」
リリィが息を飲む。
エファトは目を細める。
ロイの出自――
それは彼自身すら忘れたい“呪い”だった。
◆
ロイは無言で、敵へ歩み寄る。
男は歓喜の声を上げようと――した瞬間、
剣がその喉元に突きつけられた。
「導けだと?」
ロイの瞳が、怒りで濁る。
「俺が王なんかになったら、
また同じことの繰り返しだ。」
男が困惑の声を漏らす。
「だ……だが、民は指導者を求めて……!」
「神がいなくなったから次は王?
じゃあその次は何だ、俺か?」
その声は、氷のように冷たかった。
「権力にすがり、誰かに従うだけなら、
人間は“人形”と変わらねぇ。」
◆
騎士たちの剣先が揺れる。
「神も英雄も王も、いらない。
自分の足で立て。」
敵の顔に激昂が燃える。
「あれだけの力を持ちながら……!
貴様は、責任を放棄するというのか!!!」
ロイは剣を下ろす。
「違う。“押しつけられた責任”を拒むだけだ。」
男が歯噛みし、叫ぶ。
「では聞く!世界を救った者は、
一体誰に導かれるべきだ!!?」
ロイは静かに答えた。
「自分自身に決まってんだろ。」
その瞬間、空気が震えた。
剣を構えていた騎士たちの手が止まる。
◆
だが――
遠くから、ゆっくりと拍手が響いた。
「素晴らしいご高説ですね、ロイ殿。」
その声は上品で、冷笑が混じっていた。
月光の下に現れたのは――
黒衣の軍勢と、仮面の男。
胸に刻まれた紋章は、王家の聖印。
エファトが低く唸る。
「……“王家直属部隊”か。」
仮面の男が優雅に一礼する。
「ロイ殿。
我々は、あなたを王として迎えに来ました。」
ロイはうんざりしたように頭を掻く。
「何度も言ってんだろ。俺は――」
仮面の男はかぶせるように言った。
「拒否権はありません。」
パチン――と指を鳴らす音。
次の瞬間、
ロイの背後でリリィが息を詰まらせた。
「……っ!」
軍勢の一人が、リリィの喉元に剣を当てていた。
「貴様ら……!!!」
カイルが激昂し、エファトも目を見開く。
仮面の男は冷酷に告げる。
「あなたが王にならないのなら――
この娘を処刑します。」
ロイの全身から、黒い瘴気が噴き出した。
その瞳に宿るのは――
怒りでも絶望でもない。
絶対的破壊の意思。
「……いい度胸だ。」
呟きが、死刑宣告そのもの。
「王を求めるなら――
お前らから“王を廃す”。」
◆
月が陰る。
ロイの後ろで、灰の剣が唸る。
戦いが始まった。
世界がロイを“王”へ押し上げようとする力と、
ロイの“拒絶”がぶつかり合い――
夜が裂けた。




