『英雄失格』
神が死んだ。
祝福は消えた。
呪いもまた、意味を失った。
――なら、人は何を求める?
ロイは崩れた街の中心で、ただ灰色の空を見上げていた。
風はなく、心臓の鼓動さえ止まったかのような静寂。
「これが……俺が望んだ世界かよ。」
どこか虚無の響きを帯びた言葉だった。
◆
その沈黙を破るように、遠くから人々の怒声が響いた。
「ロイを出せ!!!」
「英雄だと思ってたのに!!」
「神を殺したのはあいつだ!!!」
人々が押し寄せ、石を投げつけてくる。
さっきまで崇めていた狂信者たちとは違う。
今度は――恐怖と憎悪に支配された市民。
「ロイ様は……救ってくれたのに!」
リリィが涙混じりの声で叫ぶが、誰の耳にも届かない。
「世界が壊れたのはお前のせいだ!!!」
「英雄失格!!!」
その言葉が、ロイの胸に突き刺さる。
「英雄……失格、ね。」
ロイは笑ってみせた。
皮肉でも、自嘲でもなく。
ただ事実を受け止める笑み。
「最初から合格してない。俺は英雄になった覚えはない。」
◆
エファトが一歩前に出ようとした瞬間、ロイが手で制した。
「エファト……やめておけ。」
ロイは人々の方へゆっくりと歩いていく。
怒りと恐怖に染まった瞳が、一斉にロイへ向けられた。
「言いたいことはわかる。
神のいない世界は、不安で仕方ないよな。」
冷静な声。
しかし、その瞳は燃えていた。
「でもな――何もかも“誰か”に任せてきたから、今があるんだ。」
石が飛び交う中、ロイは止まらない。
「英雄を掲げ、神を信じ、誰かに選択を押しつけてきた。
そのツケが、今ここにある。」
人々の怒声が、一瞬だけ止まる。
「俺はもう、お前たちの英雄にはならない。
お前たちの人生を、俺が代わりに背負ってやる義理なんてない。」
静寂。
しかし、その静寂の奥には、次なる感情が蠢いていた。
「だが――」
ロイの声が強く響く。
「お前たち自身が立とうとするなら、手を貸す。
それが俺の戦いだ。」
◆
だが、その言葉を踏みにじる影が現れる。
甲冑を纏った数十の武装集団が、
ロイたちを包囲していた。
「ロイ・アーデン!!」
先頭の男が鋭く叫ぶ。
「貴様を拘束する!
神殺しの罪を償ってもらう!!」
その鎧の胸には――
崩れた王国の紋章。
(……王国の残党か。)
ロイは肩を回し、剣に触れた。
「神殺しの罪、ね。」
視線を鋭くし、笑う。
「なら――お前らは、“神の代弁者”ってわけだ。」
男は剣を抜き放つ。
「ロイ・アーデン! 貴様は英雄失格だ!!」
ロイはその言葉を、静かに返す。
「知ってる。“英雄”なんて肩書き――最初からいらない。」
呪いでも祝福でもない、
ただ一人の“意志”の刃が、再び抜かれる。
◆
――世界はまだ、何ひとつ変わっていない。
それでもロイは歩む。
その足で。
その手で。
英雄がいなくても、前に進むことを証明するために。




