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『英雄失格』

神が死んだ。

祝福は消えた。

呪いもまた、意味を失った。


――なら、人は何を求める?


ロイは崩れた街の中心で、ただ灰色の空を見上げていた。

風はなく、心臓の鼓動さえ止まったかのような静寂。


「これが……俺が望んだ世界かよ。」


どこか虚無の響きを帯びた言葉だった。



その沈黙を破るように、遠くから人々の怒声が響いた。


「ロイを出せ!!!」

「英雄だと思ってたのに!!」

「神を殺したのはあいつだ!!!」


人々が押し寄せ、石を投げつけてくる。

さっきまで崇めていた狂信者たちとは違う。

今度は――恐怖と憎悪に支配された市民。


「ロイ様は……救ってくれたのに!」

リリィが涙混じりの声で叫ぶが、誰の耳にも届かない。


「世界が壊れたのはお前のせいだ!!!」

「英雄失格!!!」


その言葉が、ロイの胸に突き刺さる。


「英雄……失格、ね。」


ロイは笑ってみせた。

皮肉でも、自嘲でもなく。

ただ事実を受け止める笑み。


「最初から合格してない。俺は英雄になった覚えはない。」



エファトが一歩前に出ようとした瞬間、ロイが手で制した。


「エファト……やめておけ。」


ロイは人々の方へゆっくりと歩いていく。

怒りと恐怖に染まった瞳が、一斉にロイへ向けられた。


「言いたいことはわかる。

神のいない世界は、不安で仕方ないよな。」


冷静な声。

しかし、その瞳は燃えていた。


「でもな――何もかも“誰か”に任せてきたから、今があるんだ。」


石が飛び交う中、ロイは止まらない。


「英雄を掲げ、神を信じ、誰かに選択を押しつけてきた。

そのツケが、今ここにある。」


人々の怒声が、一瞬だけ止まる。


「俺はもう、お前たちの英雄にはならない。

お前たちの人生を、俺が代わりに背負ってやる義理なんてない。」


静寂。

しかし、その静寂の奥には、次なる感情が蠢いていた。


「だが――」


ロイの声が強く響く。


「お前たち自身が立とうとするなら、手を貸す。

それが俺の戦いだ。」



だが、その言葉を踏みにじる影が現れる。


甲冑を纏った数十の武装集団が、

ロイたちを包囲していた。


「ロイ・アーデン!!」

先頭の男が鋭く叫ぶ。


「貴様を拘束する!

神殺しの罪を償ってもらう!!」


その鎧の胸には――

崩れた王国の紋章。


(……王国の残党か。)


ロイは肩を回し、剣に触れた。


「神殺しの罪、ね。」


視線を鋭くし、笑う。


「なら――お前らは、“神の代弁者”ってわけだ。」


男は剣を抜き放つ。

「ロイ・アーデン! 貴様は英雄失格だ!!」


ロイはその言葉を、静かに返す。


「知ってる。“英雄”なんて肩書き――最初からいらない。」


呪いでも祝福でもない、

ただ一人の“意志”の刃が、再び抜かれる。



――世界はまだ、何ひとつ変わっていない。


それでもロイは歩む。

その足で。

その手で。


英雄がいなくても、前に進むことを証明するために。

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