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『英雄狩り』

ロイたちは、灰色に沈む世界を歩いていた。

大地はまだ再構築の途中で、崩れた大聖堂や歪んだ城壁がそのまま放置されている。

祝福の光が消えたことで、魔物が再び姿を現し始めていた。


「神がいなくても、魔物は消えないのね……」

リリィが不安げに辺りを見渡す。


「いいや、むしろ増えていく。」

エファトは遠くを見据えたまま言う。

「神の抑止力がなくなった。今の世界は、弱肉強食そのものだ。」


ロイは肩をすくめる。

「だからこそ、英雄を作らせねぇ。

“守られる側”でいる限り、世界は変わらねぇ。」



その時だった。


「おおおおおッ! 奴だ!!」


血走った叫び声。

次の瞬間、ロイの足元に飛んできた投げ槍が石畳を砕く。


埃の中から現れたのは――

黒い布で顔を隠した集団。

胸には一本の矢を象った紋――


エファトが低く呟く。

「……《英雄崇拝者ヘリオファナティクス》だ。」


彼らは、神を失った今、

“英雄”を新たな神とする狂信者。


その中心に立つ男が、頭を垂れながら叫んだ。


「神を討つ者よ! 我らはお前を崇める!!

どうか我らを導け!!」


ロイは舌打ちした。

「言ってることわかってんのか。

俺は英雄になんて――」


男はかぶせるように叫ぶ。

「ならば英雄を“殺す”英雄だ!

世界を滅ぼしてでも導いてくれ!」


リリィが怯えて一歩下がる。

「ロイ……理想が歪んで伝わってる……!」


「……そういうことかよ。」

ロイの瞳が冷えた。


英雄を否定する者が、

英雄を求める世界にとっての“都合のいいアイドル”になっている。


それが――最大の逆説。



「神を穿つ刃よ……」

男が手を広げた。


周囲の狂信者が一斉に叫び声を上げ、

ロイに向かって一斉に剣と魔法を放つ。


「ロイ!!」


リリィが悲鳴を上げたが、

ロイは一歩も動かず、ただ右手を静かに上げた。


《灰色の剣》が閃く。


――瞬間、全ての攻撃が霧散した。


地面にいた狂信者たちは膝から崩れ落ちる。


「な、なぜ……?」


ロイは男に歩み寄り、静かに言った。


「お前らが崇めてるのは、俺じゃない。

“英雄という呪い”だ。」


男の顔が恐怖に歪む。


「……なら、一度死んで理解しろ。」


黒い風が吹き、

ロイの刃が男の胸に触れた瞬間――

光が消えるように、男は崩れ落ちた。


狂信者たちは震えながら後退し、散り散りに逃げ出す。


ロイは剣を背に戻し、ぼそりと呟く。


「俺を英雄にする奴は……全員斬る。」



エファトが歩み寄り、問いかける。

「ロイ、それが本当にお前の望む未来か?」


ロイは一瞬黙り――

それでも、迷いを飲み込んだ瞳で答える。


「まだわからない。

だけど――英雄は“もういらない”。

必要なら……俺が全部壊す。」


リリィはその背中を見つめながら、

小さく拳を握りしめる。


(ロイ……

あなたが壊した後の世界を、

私が……絶対に守る。)


灰色の風が吹いた。

再構築中の世界は静かに、

新たな争いの音を孕み始めていた。

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