『英雄狩り』
ロイたちは、灰色に沈む世界を歩いていた。
大地はまだ再構築の途中で、崩れた大聖堂や歪んだ城壁がそのまま放置されている。
祝福の光が消えたことで、魔物が再び姿を現し始めていた。
「神がいなくても、魔物は消えないのね……」
リリィが不安げに辺りを見渡す。
「いいや、むしろ増えていく。」
エファトは遠くを見据えたまま言う。
「神の抑止力がなくなった。今の世界は、弱肉強食そのものだ。」
ロイは肩をすくめる。
「だからこそ、英雄を作らせねぇ。
“守られる側”でいる限り、世界は変わらねぇ。」
◆
その時だった。
「おおおおおッ! 奴だ!!」
血走った叫び声。
次の瞬間、ロイの足元に飛んできた投げ槍が石畳を砕く。
埃の中から現れたのは――
黒い布で顔を隠した集団。
胸には一本の矢を象った紋――
エファトが低く呟く。
「……《英雄崇拝者》だ。」
彼らは、神を失った今、
“英雄”を新たな神とする狂信者。
その中心に立つ男が、頭を垂れながら叫んだ。
「神を討つ者よ! 我らはお前を崇める!!
どうか我らを導け!!」
ロイは舌打ちした。
「言ってることわかってんのか。
俺は英雄になんて――」
男はかぶせるように叫ぶ。
「ならば英雄を“殺す”英雄だ!
世界を滅ぼしてでも導いてくれ!」
リリィが怯えて一歩下がる。
「ロイ……理想が歪んで伝わってる……!」
「……そういうことかよ。」
ロイの瞳が冷えた。
英雄を否定する者が、
英雄を求める世界にとっての“都合のいいアイドル”になっている。
それが――最大の逆説。
◆
「神を穿つ刃よ……」
男が手を広げた。
周囲の狂信者が一斉に叫び声を上げ、
ロイに向かって一斉に剣と魔法を放つ。
「ロイ!!」
リリィが悲鳴を上げたが、
ロイは一歩も動かず、ただ右手を静かに上げた。
《灰色の剣》が閃く。
――瞬間、全ての攻撃が霧散した。
地面にいた狂信者たちは膝から崩れ落ちる。
「な、なぜ……?」
ロイは男に歩み寄り、静かに言った。
「お前らが崇めてるのは、俺じゃない。
“英雄という呪い”だ。」
男の顔が恐怖に歪む。
「……なら、一度死んで理解しろ。」
黒い風が吹き、
ロイの刃が男の胸に触れた瞬間――
光が消えるように、男は崩れ落ちた。
狂信者たちは震えながら後退し、散り散りに逃げ出す。
ロイは剣を背に戻し、ぼそりと呟く。
「俺を英雄にする奴は……全員斬る。」
◆
エファトが歩み寄り、問いかける。
「ロイ、それが本当にお前の望む未来か?」
ロイは一瞬黙り――
それでも、迷いを飲み込んだ瞳で答える。
「まだわからない。
だけど――英雄は“もういらない”。
必要なら……俺が全部壊す。」
リリィはその背中を見つめながら、
小さく拳を握りしめる。
(ロイ……
あなたが壊した後の世界を、
私が……絶対に守る。)
灰色の風が吹いた。
再構築中の世界は静かに、
新たな争いの音を孕み始めていた。




