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『灰の時代』

空が灰色に沈んでいた。

神の光が消え去った世界は、まるで長い夜明け前のように静まり返っている。

風がない。祈りがない。

ただ――人間だけが残された。


ロイは廃墟と化した神造炉の外に立ち、遠くの大地を見渡した。

先ほどまで輝いていた大都市のバリアは消え、人々は戸惑い慄きながら空を見上げている。


「……やっちまったな。」


呟いた声は、どこか乾いていた。


祝福が消えたということは、

“生まれながらの不公平”が全て無くなったということ。

それなら喜ぶ者もいるだろう。

――だが同時に、恩恵にすがっていた者は不安と恐怖に沈む。


神がいない世界は、自由と混沌が背中合わせだ。



「ロイ!」

駆け寄ってきたリリィが、勢いのままロイに抱きついた。

その体は震えている。


「無事で……よかった……!」


ロイはゆっくりと彼女の頭に手を置く。

「大げさなんだよ。俺は死なねえって言ったろ?」


「……もう怖い思いなんて、二度とさせないでよ……」


涙を堪える声に、ロイは目をそらした。

自分の選んだ“破壊”が、彼女の不安を増やしてしまったのは事実だ。


「ロイ。」

エファトが静かに歩み寄る。


その瞳は問いを宿していた。


「神を穿ち、祝福を壊したお前は――

 これから世界をどうする?」


ロイは空を見上げ、少しだけ笑う。


「決まってる。」



その時――周囲に人の気配が広がった。

多数の足音が近づき、ざわめきが広がる。


ロイの前に、傷ついた鎧を纏った元騎士や、街の民が集まってきた。

その顔には怒り、恐怖、そして――期待。


「神を殺したのは……お前だな。」


誰かが吐き捨てる。


「英雄なんか必要ねえよ。

 だけどな……お前はどうなんだ?」


「俺たちを……導いてくれ。」


その言葉に、ロイは凍りついた。

周囲から 同じ言葉が重なる。


「英雄になってくれ!」

「頼む、俺たちを救ってくれ!」

「神の代わりに――!」


リリィの目が大きく見開かれる。

エファトは、予期していたかのように目を閉じる。


(……なんでだよ。)


ロイは拳を握りしめた。

まただ。

また“英雄”を作ろうとしている。


神を殺したという事実が、

今度はロイを新たな神に変えようとしている。


――英雄は、呪いだ。


「嫌だ。」


ロイの声は、静かだった。

だが、一切の妥協はなかった。


「俺は英雄なんかじゃない。

 俺を信じて生きてたって、また同じだ。」


沈黙が落ちる。


ロイはその中で、はっきりと宣言する。


「英雄のいない世界を作る。

 自分の足で立てる世界をな。」



その背中には、

神を穿った者だけが背負える十字架があった。


人々は、すぐには理解できない。

だが――ロイはもう迷わない。


「行くぞ。灰の世界に、新しい“光”を探しに。」


リリィとエファトが頷く。


ロイは歩き出した。

英雄を求めた声が背後で渦巻く中、

そのすべてを振り切るように。


その歩みは、

確かに“人の時代”の第一歩だった。

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