『神造炉の心臓』
白と金の光が混ざり合う空間。
そこには時間も重力も存在しなかった。
ただ、神の意志そのものが“構造体”として形を成している。
そこが――神造炉。
この世界のすべての“英雄”が生まれ、祝福が再分配される中心だった。
ロイは浮遊するようにその空間に立っていた。
足元には無数の魔法陣が回転し、無限の祈りと願いが流れ込んでいる。
そのどれもが、神への信仰の残響。
そして、それが人を“縛る”ための鎖でもある。
「ここが……神の心臓ってわけか。」
彼の声に応えるように、空間全体が微かに震えた。
“声”が響く。
それは言葉ではなく、世界の根幹から直接流れ込んでくる音。
――なぜ、呪いを選ぶ。
――なぜ、祝福を拒む。
――なぜ、神の秩序を壊そうとする。
「うるさいな。」
ロイは微笑むでもなく呟いた。
「お前たちの“秩序”がある限り、誰かが犠牲になる。
祝福を持つ者と、持たぬ者。
それを作り続ける神が、この世界の一番の“呪い”なんだよ。」
◆
神の光が収束し、中心から“形”が現れた。
それは巨大な球体――
まるで心臓のように鼓動し、光脈が世界中へ流れ出ている。
『我が核を穿つなら、世界は崩壊する。』
『お前が憎む秩序も、お前が守る民も、全てが消える。』
「構わない。」
ロイは黒い剣を抜いた。
「俺が作る。呪いでも祝福でもない、“新しい世界”を。」
呪いの紋様が腕を這い、剣に絡みつく。
光と闇が混じり合い、黒炎の刃が現れた。
それは《呪装適応》の極致――
呪いが世界と完全に同化した姿。
「《カースリンク・オーバーソウル》――発動。」
神造炉が唸る。
祈りと願いが悲鳴のように響く。
そして、ロイが剣を振り下ろした瞬間――
◆
空間が裂けた。
神の光が爆ぜ、世界の記録そのものが揺らぐ。
時間が巻き戻り、未来が書き換えられ、
無限の可能性が一瞬で消えていく。
(……ロイ、やめろ……!)
どこか遠くからリリィの声が聞こえた気がした。
だが、ロイの表情は微動だにしない。
「大丈夫だ、リリィ。」
「俺は壊すだけじゃない。――創るために、壊す。」
黒い閃光が神の心臓を貫いた。
その瞬間、金の光が破裂し、世界中の“祝福の紋”が崩壊した。
◆
全てが静まり返る。
神の声も、光も、消えた。
ロイはただ一人、灰色の世界に立っていた。
その手には、光でも闇でもない――
“灰色の剣”が握られている。
「……これが、俺の答えか。」
その刃は、どんな呪いも祝福も受け付けない。
純粋な「意思の象徴」だった。
「呪いも、祝福も、もういらない。
これからは――“人”が選べばいい。」
ロイの背に淡い光が灯る。
そして、ゆっくりと歩き出す。
神話が終わり、人の時代が始まるその瞬間。
世界は確かに、新しい朝を迎えようとしていた。
◆
だが――その遠く、虚空の奥底で。
壊れた神の残滓が、微かに囁いた。
『……英雄を廃したその男も、いずれ“英雄”と呼ばれるだろう。』
それは、終わりではなく。
新たなる呪いの、始まりだった。




