神造英雄レオン
白光が消えたあと、そこに立っていたのは“完璧な英雄”の姿だった。
金色の鎧に、透き通るような瞳。
そして、その声は――かつての兄とまったく同じだった。
「……ロイ。お前は、また間違っている。」
その言葉が響いた瞬間、ロイの胸に何かが刺さる。
あの日の記憶が蘇る。
“王族の恥”と呼ばれ、見下ろされていた日々。
“勇者”の名を奪われ、兄レオンの影として扱われていた少年時代。
ロイはゆっくりと息を吐いた。
「神までお前の姿を使うのかよ……。最低だな。」
レオンの顔をした“神造英雄”は淡々と告げる。
「神は人の希望を形にする。私はその結果に過ぎない。」
「つまり、お前は希望の亡霊か。」
ロイの右手に呪紋が走る。
「だったら、俺は呪いで希望をぶっ壊す。」
◆
空間が軋む。
神造英雄が振るう剣は、現実そのものを断ち切る光を放った。
同時に、ロイの体から黒い瘴気が立ち上る。
「《呪装適応・侵蝕展開》!」
黒い紋様が地面を覆い、白い世界を黒へと染めていく。
空が裂け、塔の内側に潜んでいた“神々の視線”がざわめいた。
まるで、異物が神話の中に紛れ込んだかのようだった。
「神の作った世界は、都合のいい英雄を選ぶ……」
ロイが呟く。
「でもな――俺は“選ばれなかった側”の英雄だ。」
呪いの剣が光を呑み込み、黒い刃が神造英雄に迫る。
衝突のたび、現実がねじれ、空間が歪んだ。
「兄貴の名前で戦うなあああああっ!!」
ロイの叫びと共に、呪いの力が暴発した。
金の鎧が砕け散り、中から白い光の粒が溢れ出す。
◆
神造英雄はゆっくりと剣を下ろし、微笑んだ。
「……そうか。お前は、英雄を憎んでいるんじゃない。
“英雄という制度”を、終わらせようとしているんだな。」
「そうだよ。」ロイは息を荒げながら言った。
「英雄を作り続ける限り、誰かが犠牲になる。
その構造を壊すためなら、俺は何度でも呪われる。」
レオンの面影が淡く消えていく。
「ならば行け、ロイ。神の中枢――“神造炉”へ。
そこに神の心臓がある。だが……それを穿てば、世界は壊れる。」
「上等だ。」
ロイは黒い剣を背負い、振り返らずに歩き出す。
「世界が壊れるなら、作り直せばいい。
今度は――“誰も選ばれない世界”を。」
光が弾け、ロイの姿は神域のさらに上層へと消えていった。
その背中を、誰も止められなかった。
◆
白の大地には、砕けた鎧だけが残る。
そこに落ちた一片が、ぼんやりと呟いた。
「……英雄を廃したその先に、何を見るのか……ロイ。」
そして静寂が戻る。
天上の炉が鳴動し、次の災厄の目覚めを告げていた。




