神域への扉
世界の果て、天へと伸びる“白の塔”。
その頂に、神々が英雄を創り出す「天上の炉」があると語られてきた。
だが、それは伝承ではなかった。
――本当に、存在していたのだ。
ロイはその巨大な塔を見上げ、静かに息を呑んだ。
空を覆う雲が塔の頂に吸い込まれていく。
雷鳴と共に、塔の表面に浮かぶ無数の紋章が脈動している。
「……これが、神域の入口か。」
隣で、エファトが腕を組んでいた。
「“英雄を廃した者”だけが辿り着ける場所。皮肉な話だな。」
「上等だよ。」
ロイは唇を歪めた。「神が俺を招いたなら――その神を斬るだけだ。」
◆
塔の前に立つ巨大な門は、光ではなく“概念”で構成されていた。
触れた瞬間、意識が浮遊し、時間が歪む。
(……見せてやろう。お前が否定した“神の正義”を。)
耳の奥で声が響く。
それは“塔そのものの声”だった。
「ロイ!」
リリィの声が遠のいていく。
ロイの身体が、光の中に吸い込まれた。
――気づくと、そこは白い大地だった。
空も地も存在せず、ただ光と音が交錯する空間。
(……ここが、“創造の間”か。)
ロイの目の前に、一人の男が立っていた。
金の鎧を纏い、背中に翼を持つ“完璧な英雄”の姿。
その瞳は、かつてロイが見たことのある色――兄、レオンのものだった。
「……兄貴?」
ロイは呆然と呟く。
だが、その声に応えるように、男は静かに首を傾げた。
「兄ではない。私は《神の模造》」
「神は、英雄を“再生産”する。死してなお、完全な姿で。」
ロイの中で、何かが崩れた。
「……つまり、お前らは“命”すら道具にしてるってことか。」
「命は神の素材。英雄は神の部品だ。」
男――否、《模造された英雄》が淡々と告げる。
「なら、俺は“壊す側”でいい。」
ロイはゆっくりと右手を上げた。
呪いの紋様が浮かび上がり、黒い雷が走る。
「《呪装適応・最終段階》」
空間が悲鳴を上げ、塔そのものが揺れた。
ロイの呪いが、“神の法”を食い破っていく。
「神域を侵す者、ロイ・アーデン!」
《模造英雄》が叫び、金色の刃を構える。
「貴様の存在は、この世界に不要だ!」
「だったら証明してみろよ。俺の“呪い”が――お前の神を穿てないってな!」
二つの刃がぶつかり、白の大地が崩壊する。
光と闇の衝突は、神の世界をも揺るがす戦いとなった。
◆
遠くの空。
地上から塔を見上げる人々は、天を貫く閃光を見た。
それはまるで、神話が燃え尽きる瞬間のようだった。
リリィが呟く。
「ロイ……どうか、帰ってきて。」
しかし、その願いを掻き消すように、塔の光はさらに強く輝き――
神々の声が響いた。
『――英雄、再構築開始。』
そして、ロイの意識は再び闇に沈んでいった。
⚔次回予告
第二部 第十七話『神造英雄レオン』
神が造りし“兄の亡霊”との対峙。
ロイは己の呪いの力の真価を問われる。
神と英雄、そのどちらにも属さぬ者の答えとは――。




