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英雄、廃すべし ― 黒の夜明け ―

夜が静まり返る中、街の中心に建つ巨大な英雄像が、ゆっくりと崩れ落ちていった。

その音はまるで、長く続いた支配の象徴が終わりを告げる鐘の音のようだった。


ロイは瓦礫の中に立ち尽くしていた。

呪いの紋様が腕を這い、黒い光が脈打つ。

周囲の空気がざわめき、群衆が息を呑む。


「――見たか? あの呪いだ……!」

「呪いに魂を売った化け物だ!」

「違う! あの人は……私たちを守ってくれたんだ!」


群衆の中で、希望と恐怖が交錯していた。

英雄と呼ばれた者を討ち倒した男。

それが誰にとっての“正義”なのか、誰も答えを出せずにいた。



「ロイ。」

背後から声がする。エファトだ。

彼は静かに歩み寄り、崩れた英雄像の欠片に視線を落とした。


「これが……お前の答えか。」


「違う。」ロイは短く答える。

「これは、始まりだ。英雄を“廃す”ことでしか、次に進めない。」


エファトは少しだけ目を細めた。

「……皮肉だな。英雄を討ったお前自身が、今は英雄と呼ばれている。」


ロイは苦く笑う。

「それが一番の呪いだよ。」



そのとき、遠くの空に光が走った。

夜空を裂くように、青白い稲妻が落ち、地平線を照らす。

――そこに、神の紋が浮かんでいた。


「見えるか、ロイ。」

エファトの声が低く響く。

「“上”が動いた。お前が英雄を討ったことで、神が次の手を打つ。」


「……上、ね。」

ロイの瞳がわずかに赤く光る。

「なら、俺も行くしかない。神が英雄を作り続けるなら、俺は――壊す側に回る。」


リリィが泣きそうな声で叫んだ。

「ロイ、もうやめてよ! あなたまで壊れてしまう!」


ロイは振り返らずに答えた。

「大丈夫だ。俺は壊れない。だって……俺は最初から壊れてたから。」


呪いの光がロイを包み、彼は瓦礫の中からゆっくりと歩き出した。

その姿を、誰も追えなかった。

彼が向かう先は、神の領域。

英雄を廃し、神話を穿つための“戦い”が、今、始まる。



夜明け。

崩れた像の影の中、ひとりの子どもがロイの落とした剣を拾い上げた。

その刃にはまだ、黒い呪紋が淡く光っている。


「……呪いって、綺麗なんだね。」


その無垢な声が、静かに風に溶けていった。

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