告げられた終焉
◆
――闇が去った後も、遺跡には不穏な沈黙が残っていた。
ロイは息を整えながら、崩れた床の中心に残された“印”に目を落とす。それは、黒月の魔紋とは異なる、より原始的で禍々しい紋章だった。
「……これ、ただの闇じゃない」
リリィが震える声で呟く。
「黒月の力を利用している“何か”がいる。しかも、それは元々この世界に属していなかった存在かもしれない」
エファトの言葉は静かだが、どこか警告めいていた。
「異界……ってことか?」カイルが顔をしかめる。
エファトはわずかに頷き、続けた。
「この印は、神話時代に記されていた“穿たれた神”の紋だ。神が堕ち、神ではなくなった者の証。存在してはならぬ理外の力だ」
「神を……穿った……?」
ロイの中に走る、理解を拒むような感覚。
そのとき、遺跡の奥から低く、重たい音が響き渡る。
“ゴゴゴ……”という地鳴りの中で、崩れかけた石像の一つが不自然に動いた。
「……!」
誰よりも先に反応したのはロイだった。即座に《呪装適応》を展開し、呪いの力をその右手に集中させる。
動いたのは石像ではなかった。
その背後――空間の“裂け目”から、巨大な鎧の腕がねじり出される。
「黒月の眷属――いや、違う……!」
裂け目の中から現れたのは、かつて聖騎士団にのみ伝わるとされた、“神鉄の鎧”をまとった騎士だった。だがその鎧は崩れ、歪み、呪いに侵蝕されて黒ずんでいた。
「元・祝福騎士だ」
エファトが呟いた。「神の祝福を得た者が、呪いに堕ちた存在……最悪の組み合わせだ」
◆
その騎士の兜の下、ぼやけた目がロイを見据える。
「……我は、審判。神の敵、ここに現るとき、終焉をもたらす刃を迎え討つ」
「審判? 神の敵……?」
言葉の意味が理解できた瞬間、ロイの背筋に冷たい何かが走る。
「それって、俺のことか」
騎士は剣を引き抜いた。
神鉄製の大剣、その刃先からは黒く濁った祝福の光と呪いの瘴気が混ざり合い、渦を巻いていた。
「お前は、神を穿つ者。“刃”そのものと認定する」
「それがどうしたよ」ロイは静かに歩を進める。「神の器なんかいらねぇ。俺は――俺の呪いで、お前を叩き潰す!」
その瞬間、空間が収束し、斬撃と呪詛が交錯する。
◆
戦いの音が響く中、リリィが静かに言った。
「ロイの呪いは……ただの力じゃない。彼の中には、“答え”がある。祝福なんてものに頼らない、呪いが導く答えが」
カイルは苦笑しながら応じた。「ああ、ロイってのは本当に“神を穿つ刃”だよ。俺らの前を切り開く、どこまでもな」
戦場の中央で、ロイの右手が再び光る。
《呪装適応:侵蝕第二段階・再構成》
呪いの装備が、再びロイの意志に応じて“進化”する。神鉄の鎧と同じ構造の呪い剣が、その手に出現した。
「終焉を告げたいのは、こっちなんだよ……!」
黒い剣と神鉄の刃が、火花を散らしながら激突する。
ロイは叫んだ。
「この呪いが、俺の答えだ――!!」
次回へ続く。




