黒月の継承者
「ロイ、下がってろ!」
エファトの怒声とともに、不老剣が深く闇の存在へと切り込んだ。しかしその刃は、肉体ではなく“存在”そのものに触れたかのように、手応えを持たず、ただ波紋のような揺らぎだけを残してすり抜けた。
「……効かない、のか?」
エファトですら驚く無効化。相手は明らかに、常識の外にある存在だった。
「いいや、少しは通ってる。」ロイは歯を食いしばり、己の中に渦巻く《呪装適応》の力を呼び覚ました。「これも通じないなら、俺の存在意義がねぇ!」
呪いを纏う。全身を蝕む感覚の中、ロイはなお歩みを止めず、闇の化身に向かって踏み出す。
「来るか、呪いの子よ……」
闇の存在が、まるで歓迎するように囁いた。
「お前こそが、我が意志を継ぐ者に相応しい」
「は?」
ロイは思わず足を止めた。敵意も、殺意もない。あったのは、まるで――慈しむような、執着。
「お前はすでに、“黒月の適応者”だ。我と同じ、呪いを喰らい、呪いを生かし、呪いに生きる者……我の遺志を受け継げ」
「ふざけんな!」ロイは即座に否定した。「誰かの力になりたいとかじゃねぇ。俺は、呪いを――『この世界で戦う手段』として選んだだけだ!」
全身を包む呪いの瘴気が、一気に解き放たれる。
《呪装適応:第三段階・強制侵蝕》
地を焼き、空を裂き、ロイの呪いは現実を侵食した。だが、闇の存在は微動だにしない。
「それでこそ、継承者だ」
闇の声が、優しくさえ聞こえた。
「うるせぇ!お前が望んでくれなくても、俺は――俺の呪いを、俺のために使う!!」
その瞬間、黒い光が炸裂した。ロイの拳が、直に闇の存在へ叩き込まれる。
◆
遠くから見守っていたリリィとカイルが、呆然と光景を見つめていた。
「ロイの……呪いが、浄化してる?」
リリィの声は震えていた。呪いが、呪いを打ち消している。矛盾にも思える力の反発。
「いや、違う」エファトがぽつりと呟く。「これは、適応の極致だ。ロイは……呪いそのものを“生かす”方向に進化させたんだ」
ロイの手から放たれる瘴気が、闇の存在の核にまで食い込む。そして――
「ッッらああああッ!!」
最後の一撃が、核を穿ち、闇の存在は静かに霧散していった。
「……終わった、のか?」
呆然と立ち尽くすロイ。彼の体は限界寸前だった。だが、その顔には確かな達成感があった。
「すごいよ、ロイ!」リリィが駆け寄り、しがみつくように抱きついた。
「……よくやった」カイルも笑みを見せる。
「だが、勘違いするなよ」
エファトの言葉に、三人の視線が集中する。
「今のはただの“幻影”だ。本体ではない。だが……今、ロイが黒月の継承者として選ばれたことは確かだ」
「……継承者?」ロイは眉をひそめる。
「黒月の力は、これからお前の内に眠り続ける。そして、その力に惹かれた“本物”が、やがてお前を試しに来る。」
「……っ!」ロイの中で、恐怖ではなく、燃え上がる闘志が芽吹いていた。
「なら、そいつを迎え撃つ準備をすればいいだけだ。俺はもう……呪いを恐れない。俺の中の力は、誰にも渡さねえ!」
闇を打ち破ったロイ。その背中は、一層強く、そして孤高に見えた。
だが、その空の彼方、暗雲の奥で確かに脈打つものがあった。
それは、黒月の“本体”――。
そして、ロイの次なる試練の幕開けを意味していた。




