第8章:見えない敵には、影で応じる
第8章:見えない敵には、影で応じる
王都・影裏区
王都の表の顔に飽きた連中が落ちていく、闇の市場。
ここには「盗賊ギルド」と呼ばれるが、実際は諜報・密偵・暗殺を扱う非公認の巨大組織がある。
野々山とオグデヘリ、そして由美子がその本部に足を運んだ。
扉の前にいた受付嬢は、笑顔で言った。
「“王国の政治に踏み込んだ男”がここに来るとはね。いよいよ命が惜しくなった?」
「いや、俺の命じゃない。仲間の命が惜しい」
雇われた影のプロ:ミール=カロア
・職能:暗殺対策・攪乱・毒対処・変装・裏社会調整
・性別:女性(無表記)
・口数:少ない
・外見:細身、目に傷跡。服装は黒装束に軽鎧、常に香のような匂いがする
・スキル:毒感知、変装見破り、気配察知、幻視阻害
「契約条件は?」
「月金貨30。死んでも文句言わない。敵が近づいたら、その前に気づかせる。それだけ」
「決まりだ。今すぐ来てくれ。……状況が動いてる」
第9章:絵画が黙る男
数日後、野々山隊は王都の外交晩餐会に招かれる。
王の代理として現れたのは、貴族ではなく“新たに任命された王国評議会監察官”だった。
名はルディ=グランス。表の評判は完璧。
清廉、公正、実務的、敵がいない――にもかかわらず、何かが引っかかる。
野々山は、波動絵画を手土産として渡した。
「監察官、これは最近我々が発見した“真理を映す絵”です。ご覧になりますか?」
「興味深い。見せていただこう」
ルディは静かに絵を見る――しかし、何も変化が起きない。
「……?」
その瞬間、英傑の背筋に冷たいものが走る。
(何も“映らない”のか……?それとも、“映せない”のか?)
ミールの警告
その夜、野々山のもとにミールが無言で現れた。
「……“あの男”に近づかない方がいい。あなたの感覚が正しい」
「何か感じた?」
「“香りがしない”。普通、嘘をつく人間には微かな変化がある。心拍、筋肉の反応、皮膚の匂い。
でも、あの男にはそれが一切ない。“生きてる人間”の構造をしていない。私たちの分類では――“人外”」
真の敵:仮説
英傑は、由美子と2人きりで作戦室に戻り、ホワイトボードに線を引いた。
「“絵画に映らない”。“人の気配がない”。そして“王室直属の監察官”……」
「あいつ、“人間のように見えるだけの何か”じゃないか?」
「まさか、王室がそんなものを……?」
「いや、王室すら気づいてない可能性がある。“あれ”が王国の中枢に入り込んでるなら……」
由美子は震えながらも、うなずいた。
「戦場は、地面じゃなくて、“この国の中”にあるのね」