第5章:名前に込められたもの
第5章:名前に込められたもの
ギルド奥の書庫にて
ある日の夜。ギルドの許可を得て、英傑は書庫にこもっていた。
古びた外交記録や国境紛争の資料を広げ、黙々とメモを取っている。
「……お前、なんでそんなもん読んでんだ?」
ケガガンが不思議そうに聞く。
英傑は少し間を置いてから答えた。
「俺さ、日本じゃ……じいちゃんがミニ政党の党首だったんだよ。『草の根日本党』っていう、選挙で全然勝てない泡沫政党」
「泡沫……?」
「まぁ簡単に言えば、“小さくて無力な声”ってこと。だけど、じいちゃんはいつも言ってた」
“国を動かすのは、でかい声じゃない。必要なとき、必要な言葉を正しく言える人間だ”
「だから、隠れて政治の勉強してた。誰にも言えなかったけどね。『変なガキ』って言われるのが怖くて」
レサが腕を組んだままうなずいた。
「……だが今は、役に立ってるな。あんたの指示、論理が通っててブレがない。こっちは安心して動ける」
「そう言ってもらえると、嬉しいっす」
第6章:初の政治依頼「境界の村を守れ」
ある日、ギルド上層から直接の指名が入る。
【上位推薦依頼】
件名:境界地域・デル=ガラム村 交易路安全保障任務
内容:
・王国とサーリナ国の非公式交渉が進行中
・村が非武装地帯に指定され、武装ギルドの派遣が不可
・“武力なしで村の安全を確保”せよ
指名:野々山隊
「……これ、政治案件だな。しかも地雷原みたいなやつ」
由美子が顔をしかめた。
英傑は笑った。
「やっと来たな、“俺がやれる領域”ってやつが」
現地:デル=ガラム村
村は不安に満ちていた。隣国の“民兵”と名乗る連中が村に入り込んで、略奪まがいの“交渉”をしていた。
「我々はサーリナの農地開拓団だ。共存の意志がある」
「だったら、なんで弓を持ってる?」
英傑が正面から詰めると、相手の顔が凍った。
「こちらは非武装だが、そちらは交戦装備だ。交渉のテーブルに出る条件を満たしていない」
「“武装のない村”と“武装のない交渉団”以外は、対話の場に立てない。
それが、王国の非公式ラインで通ってるルールです」
英傑の言葉に相手はひるみ、撤退した。
村長との会話
「あなた、ただの冒険者じゃないですね」
「……昔ちょっとだけ、“国の中で無力だった人たち”の話を聞いて育っただけです」
「デル=ガラム村は、守ってくれた恩を忘れません。必ず、力になります」
ギルドへの帰還
ギルドの上層部は評価を正式に発表する。
「野々山隊は、Bランク相当の【外交任務・調停任務】を完遂。
よって以後、特別政治依頼の候補パーティーとする」
英傑は何も言わず、手帳に新しいページを開いた。
「戦うだけが強さじゃない。言葉で守れるものがあるなら、俺はそれを使う」