第13章:戦略会議「国家の運用権を、誰が握るか」
第13章:戦略会議「国家の運用権を、誰が握るか」
場所:王都・野々山隊作戦本部(旧王宮地下倉庫)
石造りの会議室。魔導灯がぼんやりと空間を照らし、中央の丸テーブルを囲む10人。
英傑は静かに言った。
「今日は“戦うかどうか”じゃない。“動かすのは誰か”を決める。
この国の舵を、どう握るか――その話だ」
各専門家の見解
1. 片桐 壮馬(経済)
「国家は“誰が財布を握るか”で形が決まる。
現在、王室と3大貴族が国庫を実質支配しているが、それを民間信用連携機構に流す仕組みを作るべきだ」
「予算=支配ではない。信用=支配だ。
その信用を“民間でも国家でもない第三の存在”に集めるべき。
候補は、君だ。野々山英傑」
2. 伊佐木 葉(情報)
「情報は軍事と同じ。
記録を統べ、印象を操作できる者が、国民の“現実”を支配する」
「今は王室直属の報道局が世論を握っている。
そこへ割り込む形で“独立報道連盟”を作る。表向き自由。実際は我々の影響下に置く」
3. ダルヴィン(外交)
「隣国との対話の場を“王”が代表している現体制では、いずれ“君”が敵になる。
交渉の前線に立つ“非政府系の外交機関”が必要だ」
「君が“国家の代弁者ではない”、と主張しながらも、
実質的に“戦争を避ける最後の壁”になる枠を、作るべきだ。これも君の立場になる」
4. 八雲 美空(文化・人的交流)
「支配には教育がいる。
君が“この国の価値観”を作るなら、小学校を変えるのが一番早い」
「王都に“自治学級”を作って。教科書と教師の選定権限をあなたに。
10年後、この国は“あなたに教えられた子どもたち”で埋まる」
5. 灰雨(スパイ部隊)
「敵は動いてる。貴族会議の一部と教会派が、君を“合法的に処分する”準備をしてる。
我々は既に暗殺を2件阻止した」
「“顔は見せず、声も持たず”という原則で、君の意思だけを動かせる隠密構造が必要。
指揮系統は我々が握るが、最終判断は君が持つ」
6. ユーセフ(NGO・人権)
「君が民を守ると言うなら、“痛み”を知ってくれ。
都市部の貧民は、王も貴族も“存在しないもの”として扱ってる」
「その支援と投資の枠組み、“民衆の名で君が配れる金”を作る。
民の信用は、金より深い“感謝”をもたらす」
7. 古牧 紗南(経済的懐柔)
「敵を殺す必要はない。“黙らせるだけ”でいい。
貴族連中にはそれぞれ、“家族・事業・秘密”がある。
それを握れば、彼らは“味方のフリをする”」
「あなたが交渉の余地を残すなら、**支配ではなく“従属的協力”**を選ばせればいい」
英傑の決断
全員が語り終えた後、英傑はテーブルに手を置いた。
「要するに――“支配者”にはなれって話だろ?」
沈黙。
「……でも俺は、“誰の支配者にもなりたくない”。
俺がなりたいのは、“存在を操作せずに、構造だけを握る奴”だ」
「ルールを動かす。仕組みを変える。
でも人間そのものには手を出さない。
俺は、“未来の余地”だけを守る」
レヴェレントが壁際から微笑む。
「“記録の裏”で生きてきた僕からすれば……君は、“記録そのものを編む人間”に見える」
最終結論:「構造国家ユニット構想」
野々山の提案で、国家の運用は以下に分散される:
国家表面=王・貴族層の象徴維持(伝統)
国家実務=野々山と7人の専門家チームによる構造的運営(実利)
影の安定=スパイ・レヴェレントによる国家裏面の調整(秩序)
「これは政変じゃない。“構造改修”だ。
誰も血を流さずに、俺たちは国を丸ごと取り替える」
次回予告:
「新構造国家」発表前夜。
レヴェレントの“人格継続”の代償が発覚。
王が野々山に私的謁見を申し出る――「後継者として動け」
教会派の暴走。異端審問官が“構造改修”を敵視し、敵対開始。