第12章:存在なき声、記録なき記憶
第12章:存在なき声、記録なき記憶
場所:旧エルゼン神殿・地下礼拝堂
天井が崩れ、苔が生えた古代の礼拝堂。
セニアの記憶連結図が示す“中心点”――そこにヴァロが足を踏み入れた瞬間、空間が静止した。
「来たね」
声が響く。方向がわからない。音が“思考に直接届く”。
「野々山英傑。君が来ると思っていた」
現れたのは、完璧な姿をした男――ルディ=グランス。
だが、その目は“誰の記憶にも属さない空白”だった。
対話:記録とは、存在の外皮
英傑が一歩踏み出す。
「お前は、なに者だ。なぜこの国の記録に潜んでいた?」
ルディ――レヴェレントが静かに答える。
「僕は、“存在という概念の副産物”。
あるとき人々が“記録する”という習慣を持ち始めた。
そのとき初めて、“記録されないもの”が必要になった。
それが、僕」
「……は?」
「存在は、認識されることで形を持つ。
けれど、誰もがその枠の外に何か“異物”を必要としている。
“例外”、とか、“理解できないもの”、とか。
だから僕は作られた。“国家の裏側”に必要な、公式に記録されない管理者として」
英傑:それは思想じゃなく、“逃げ”だ
「つまり、国家が“知らないふりをするため”にお前がいるってことか」
「違う。“国家”は知っていた。
知らないふりをして、“汚れ”や“不都合”を僕に流し続けてきた。
だから僕は膨らんだ。存在を持ってしまった」
英傑は拳を握りしめる。
「お前、自分のことを“仕方なかった”って言いたいのか?」
レヴェレントの口元がわずかに歪んだ。
「君もいずれ分かる。“リーダー”は清潔ではいられない。
清潔な命令では、人は動かない」
「……それでも俺は、見てしまったものを“なかったこと”にはしない。
この国はお前を“見ないことで保たれてた”なら、
俺は“見た上で、維持する”方法を作る」
レヴェレントの“提案”
「ならば君に問おう。僕を殺すか?共に動くか?
君の専門家、君の思想――それで国を保てるというなら、
僕は君の“記録されない側近”として働いてもいい」
静寂が落ちる。
セニアも、ヴァロも、由美子も何も言わない。
ただ、英傑が一歩近づいた。
「その選択をするのは――お前じゃない。俺だ」